「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化」国土交通省、新たな指針
国土交通省は2023年4月3日、マンション管理及び修繕工事の主要な業界団体あてに「マンション大規模修繕工事の発注等の適正化」に関する新たな方針を通知しました。今後高経年のマンションはますます増加する見込みで、管理組合が修繕積立金を安定的に確保し、適切に大規模修繕工事を行うことで、マンションの長寿命化を目指すことが重要視されています。今回のコラムでは、この方針を後押しするための様々な施策の内容について、管理組合の皆さんにわかりやすくポイントを整理してお話ししたいと思います。
まず、令和5年4月1日より長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する固定資産税の減税措置が創設されました。多くの高経年マンションでは、住民の高齢化や昨今の工事費の急激な上昇により、長寿命化工事に必要な修繕積立金が不足している状況があります。それによって長寿命化工事が適切に行われないと、外壁の剥落やマンションの廃墟化を招き、周囲への大きな悪影響や除却の行政代執行に伴う多額の行政負担が生じることとなってしまいます。
このため、大規模修繕工事に必要な修繕積立金の確保や適切な長寿命化工事の実施に向けたマンション管理組合の合意形成を後押しすることを目的として、「長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置(マンション長寿命化促進税制)」が創設されたのです。
このように、適切に大規模修繕工事を実施することはマンションの維持管理において重要であり、大規模修繕工事の発注等においても、業者の選定に係る「意思決定の透明性の確保」や「利益相反等」には十分な注意をして、適正に行われる必要があるのです。国土交通省はそのために、管理組合向けに大規模修繕工事の発注等に関する相談窓口や適正な工事発注のための参考情報を下記の通りまとめました。管理組合の皆さんには、最低限これらの情報を理解したうえで大規模修繕工事を進めていただくようお薦めします。
大規模修繕工事に関する管理組合等からのご疑問・ご相談については、下記の相談窓口において、建築士等によるアドバイスを行っています。ぜひ、これらの相談窓口を有効活用して、適正な大規模修繕工事の実施に努めてください。
<相談窓口>
○ (公財)住宅リフォーム・紛争処理支援センター
https://www.chord.or.jp/reform/consult.html
(電話番号)住まいるダイヤル 0570(016)100
※ 工事費については「見積チェックサービス」(無料)も行っています。
○ (公財)マンション管理センター
http://www.mankan.or.jp/06_consult/tel.html
(電話番号)建物・設備の維持管理のご相談 03(3222)1519
大規模修繕工事の進め方に関する「おすすめ情報」はこちらを!
①マンション大規模修繕工事に関する実態調査
国土交通省は、管理組合が適切な大規模修繕工事の発注等ができるように、「大規模修繕工事」や「大規模修繕工事の設計コンサルタント業務」の実態調査を行いました。(令和3年度調査:200 社 818 件の工事事例を収集「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」)
この調査結果の利用方法は、自分が住んでいるマンションと同じくらいの規模(総戸数)のマンションの大規模修繕工事の工事費や設計コンサルタント費用等を参考情報とすることができます。
これにより、自分のマンションの大規模修繕工事の計画段階で出てきた「工事費」や「設計コンサルタント費用等」が相対的にどのあたりに位置づけされているかの把握ができることになります。(※ただし、この調査結果はあくまでも他のマンションの実態調査であり、適正な価格等を示すものではありません。)
②改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル(国土交通省)
国土交通省は大規模修繕工事の発注方法や注意ポイントに関し、管理組合等にわかりやすく情報を提供することを目的に、「改修によるマンションの再生手法に関するマニュアル(令和3年度改訂)」を公表しています。専門家や施工業者の選定方法についても解説しています。
③「大規模修繕工事の手引き~a. マンション管理組合が知っておきたい工事・資金計画のポイント~」及びマンションライフサイクルシミュレーション(住宅金融支援機構)、b. 「長期修繕計画・修繕積立金算出サービス(マンション管理センター)」
a.住宅金融支援機構は、管理組合が大規模修繕工事の検討をするために「大規模修繕工事の手引き」や、建物規模、築年数に応じたマンションの「平均的な大規模修繕工事費用」などを試算することが可能なマンションライフサイクルシミュレーションを公開しています。また、b.(公財)マンション管理センターでは、「長期修繕計画・修繕積立金算出サービス」を運用しています。
これらは手引きだけではなく、施工業者から提案された工事費が妥当なのかどうかを判断する材料に活用する情報になるでしょう。
<掲載先>
○大規模修繕の手引き~マンション管理組合が知っておきたい工事・資金計画のポイント~(独立行政法人 住宅金融支援機構)
【住宅金融支援機構ホームページ】
https://www.jhf.go.jp/loan/yushi/info/mansionreform/shuzen_guidebook.html
○マンションライフサイクルシミュレーション
【住宅金融支援機構ホームページ】
https://www.jhf.go.jp/simulation_loan/m-simulation/index.html
○「長期修繕計画・修繕積立金算出サービス(公財 マンション管理センター)」
【マンション管理センターホームページ】
https://www.mankan.or.jp/07_skillsupport/skillsupport.html
大規模修繕工事の発注等における留意点
マンションあんしんセンター(以下、「当センター」)が管理組合にお薦めしている「設計監理方式」にも問題点があります。大規模修繕工事について素人の管理組合がノウハウや知識のある専門家として一級建築士事務所(いわゆる設計コンサルタント)にサポートしてもらい進める「設計監理方式」。しかし、その設計コンサルタントが悪質で、管理組合にはわからないように、特定の施工業者が発注先となるように裏で画策して、工事請負契約が成立した後で、「紹介料・斡旋料」として施工業者から高額のバックマージンを受領するというものです。
ただし誤解しないでください。多くの設計コンサルタントは誠実に業務を遂行していますので安心してください。悪質な不適切コンサルタントはほんの一部の企業だということなのです。
国土交通省は以下URLの情報発信を行い、①実際に利益相反が指摘された事例や、②発注時の透明性の確保を目指した取組等を管理組合向けに紹介しています。管理組合の皆さんは、是非このような事例や取組を参考にして、適切に大規繕修繕工事を進めていただき、管理運営を適正にしていただきたいと思います。
〇設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知) https://www.mlit.go.jp/common/001230147.pdf
※不適切コンサル対策の方法については、当センターのコラム「管理組合が大規模修繕工事の業者選びで注意すべきポイントはこれだ!」も是非参考にしてください。
本コラムの最後に
上記を参考にして、適正な設計コンサルタント、施工業者を選定しても、大規模修繕工事においては、万が一の事故、倒産、瑕疵などトラブルが発生する可能性があります。その場合、管理組合には経済的損失や建物の欠陥などによる資産価値低下など大きな損害が発生してしまいます。施工業者には、これら損害を適正に賠償してもらわなければ管理組合運営が立ち行かなくなる危険性があります。
こういったリスク対策を施す(工事請負契約締結に向けて保険・保証制度を整備する)ことも管理組合理事会や修繕委員会には必要になってきます。区分所有者を代表して、大きな金額となる大規模修繕工事を進める重責を担っているのですから、そこまでケアをしておく必要があります。
そこで、トラブルが発生しても確実に管理組合や被害者が補償を受けられるセーフティネットとして当センターでは、工事中の業者倒産への備えの「履行保証保険」、工事後の瑕疵・不具合への備えの「瑕疵保険」を施工業者に加入してもらうことをお薦めしています。
管理組合は業者選定の入札条件に「履行保証保険、瑕疵保険へ加入」と記載するだけで、あとは業者側で当センターで加入手続きを進めますので簡単・安心です。
当センターは、大規模修繕工事の倒産・瑕疵の研究、予防、対策、そして万が一それらトラブルが発生した場合に管理組合をサポートする活動をメインとしています。保険営業をメインとして行っているものではありません。また管理組合へしつこい営業行為をすることは致しません。ご安心くださいませ。