こんにちは!事務所が渋谷にある、渋谷貴博です。
私は35年間マンション業界で働いてきました。またプライベートでは、マンション(埼玉県さいたま市・総戸数812戸)に住んで、修繕委員、副理事長、理事長経験があります。そんな私が管理組合役員の皆さまの役に立つ情報を発信します。
世界情勢の変化が建設業界に及ぼす構造的影響
近年の中東情勢の悪化は、エネルギー価格や物流コストの上昇を通じて、日本国内のあらゆる産業に影響を及ぼしていますが、その中でも特に深刻な影響を受けているのが建設業界、そしてマンションの大規模修繕工事です。大規模修繕工事は外壁塗装、防水工事、鉄部塗装など多くの工程で石油由来の製品や輸入資材に依存しており、原材料価格の変動に極めて敏感な構造を持っています。
中東地域は世界有数の原油供給地であり、その不安定化は原油価格の高騰を招き、結果として塗料、シーリング材、防水材などの価格が連鎖的に上昇しています。これらの資材は単なる材料費にとどまらず、輸送コストや製造コストにも波及し、最終的には工事費全体を押し上げる要因となります。
また、資材価格の上昇だけでなく、供給の不安定化も大きな問題です。特定の原材料や化学製品の輸入が滞ることで、メーカー側が製造量を制限せざるを得ず、その結果として市場における資材の入手が困難になるケースが増えています。大規模修繕工事は計画的に工程を進めることが前提であるため、特定の資材が不足すると全体の工程に遅延が生じ、工期の長期化につながります。このような状況は単なる一時的な混乱ではなく、世界情勢と密接に連動した構造的リスクであり、今後も継続的に注意が必要です。
《参考》建設資材価格の動向については、一般財団法人 建設物価調査会が公表している「建設資材物価指数」も参考になります。
https://www.kensetu-bukka.or.jp/douko-shisu/
塗料・資材価格高騰と工期遅延の現実
大規模修繕工事において、外壁塗装や防水工事は工事費の中でも大きな割合を占める重要な工程です。これらに使用される塗料や防水材は、原材料の多くが石油化学製品で構成されているため、原油価格の上昇は直接的にコスト増加へとつながります。さらに、為替の変動や輸送費の上昇も加わり、従来の見積りでは到底吸収できない水準まで価格が高騰しているケースも見受けられます。
一方で、資材の供給遅延は工期にも深刻な影響を与えています。たとえば、予定していた塗料が納品されない、あるいは納期が大幅に遅れるといった事態が発生すると、工事は一時的に中断せざるを得なくなります。大規模修繕工事は足場の設置や作業工程が密接に連動しているため、一部の工程が遅れると全体のスケジュールが崩れ、結果として居住者への負担も増大します。工期延長に伴う仮設費用の増加や、再調整にかかる人件費も加わり、最終的には管理組合の負担増につながる可能性が高まります。
さらに問題なのは、こうした価格高騰や納期遅延が事前に予測しづらい点です。従来であれば一定の価格水準と納期を前提に見積りを作成することができましたが、現在は見積り段階では想定できなかったコスト増が工事中に発生するケースが増えており、工事会社にとってもリスクの高い環境となっています。

受注環境の変化と工事会社の収益圧迫
このような資材価格の高騰と供給不安は、工事会社の受注環境にも大きな変化をもたらしています。従来であれば、一定の利益を見込んで受注できた案件であっても、現在では資材価格の変動リスクを考慮すると、安易に受注することができない状況が生まれています。特に中小の工事会社にとっては、価格変動を吸収する余力が限られているため、採算が見込めない案件については受注を見送る判断をせざるを得ません。
また、すでに受注している工事においても、資材価格の急騰により当初の見積りを大幅に上回るコストが発生するケースがあります。この場合、契約条件によっては追加請求が認められないこともあり、工事会社がその差額を負担することになります。こうした状況が続くと、利益どころか赤字となる工事が増加し、経営を圧迫する要因となります。
さらに、受注を控える動きが広がることで、市場全体の供給力が低下し、結果として大規模修繕工事の発注自体が難しくなるという悪循環も生じています。管理組合としては、適正な価格で信頼できる工事会社を選定したいと考えていても、そもそも入札に参加する会社が減少してしまうため、選択肢が狭まるという問題に直面しています。
外注費支払い困難と資金繰り悪化の連鎖
大規模修繕工事は、多くの専門業者による分業体制で成り立っています。塗装業者、防水業者、足場業者など、複数の外注先に支えられており、元請会社はこれらの外注先に対して適切なタイミングで支払いを行う必要があります。しかし、資材価格の高騰や工期遅延によって工事全体の収益が悪化すると、元請会社の資金繰りにも影響が及び、外注先への支払いが滞るリスクが高まります。
外注費の支払いが遅れると、下請業者の経営にも直接的なダメージを与えます。特に中小規模の専門業者は資金余力が限られているため、入金の遅延が即座に経営危機につながるケースも少なくありません。このような状況が連鎖的に発生すると、工事全体の進行にも支障をきたし、最悪の場合には工事が途中で停止してしまう可能性もあります。
さらに、金融機関からの信用にも影響が及びます。資金繰りが不安定な状態が続くと、追加融資が受けにくくなり、資金調達の選択肢が狭まります。その結果、さらに資金繰りが悪化するという負のスパイラルに陥るリスクが高まります。
経営不安定化と倒産リスクの現実
これらの要因が重なることで、工事会社の経営状況は急速に不安定化します。資材価格の高騰、受注環境の悪化、資金繰りの逼迫といった複数のリスクが同時に進行することで、従来であれば健全な経営を維持できていた企業であっても、短期間で経営危機に陥る可能性があります。
特に大規模修繕工事は工期が長く、契約金額も大きいため、一つの案件が経営に与える影響が非常に大きいという特徴があります。赤字案件が複数重なると、自己資本を大きく毀損し、最終的には倒産に至るケースも現実に起こり得ます。近年では建設業界全体で倒産件数が増加傾向にあり、その背景にはこうした外部環境の変化があると考えられます。
また、倒産リスクは単に工事会社だけの問題ではありません。工事途中で元請会社が倒産した場合、工事の継続が困難となり、管理組合は新たな施工会社の選定や追加費用の負担を余儀なくされます。さらに、工事の品質確保や保証の問題も生じるため、管理組合にとっては極めて大きなリスクとなります。
管理組合が取るべき対策と今後の視点
このような状況下において、管理組合が最も重視すべきは「価格の安さ」だけでなく、「工事会社の経営の安定性」です。見積り金額が安いという理由だけで施工会社を選定すると、結果として工事途中での資金不足や品質低下といったリスクに直面する可能性があります。むしろ、適正な価格でありながら、財務状況が健全で、資材調達力や工程管理能力に優れた会社を選定することが重要です。
さらに、倒産リスクに対する具体的な備えとして、工事会社に対して「履行保証保険」への加入を求めることは極めて有効な対策となります。たとえば、日新火災海上保険が提供する履行保証保険(保険代理店:マンションあんしんセンター)への加入をリクエストすることで、万が一工事会社が倒産した場合でも、管理組合は保険金を受領することが可能となります。その保険金を活用することで、途中で停止してしまった工事を再開し、最終的に無事完成へと導くことができる仕組みを確保することができます。
※日新火災海上保険の履行保証保険では、申込の前に工事会社の財務状況を審査します。財務状況が悪い工事会社は審査不合格となります。つまり、この審査に合格した工事会社は財務状況が比較的健全で倒産するリスクが低い企業と言えます。その工事会社だけが申込することができますので、管理組合は安心です。
このような「履行保証保険」の仕組みは、単なる保険という枠を超えて、工事全体の安全性と確実性を高める重要なリスクヘッジ手段です。特に現在のように外部環境の不確実性が高い局面においては、万が一の事態に備えた仕組みを事前に構築しておくことが、管理組合にとって不可欠な判断といえるでしょう。
加えて、契約条件においても、過度な前払いを避け、出来高に応じた支払いとすることで、資金管理の透明性を確保することが求められます。こうした複合的な対策を講じることで、工事会社の倒産リスクを最小限に抑え、安定した大規模修繕工事の実現につなげることが可能となります。
今後も中東情勢をはじめとする世界的な不確実性は続くと考えられ、大規模修繕工事を取り巻く環境は一層厳しさを増す可能性があります。その中で、管理組合には従来以上に高度な判断力とリスク管理が求められます。適切な情報収集と専門家の活用を通じて、長期的に安定した修繕計画を実現していくことが、マンションの資産価値を守るうえで不可欠となるでしょう。
まとめ
中東情勢の悪化は、原材料価格の高騰や供給不安を通じて、大規模修繕工事に深刻な影響を与えています。その結果、工期遅延や工事費の上昇だけでなく、工事会社の資金繰り悪化や倒産リスクの増大といった問題が顕在化しています。こうした状況に対しては、施工会社の経営状況を見極めるだけでなく、「履行保証保険」の活用といった具体的なリスク対策を講じることが重要です。価格だけにとらわれない判断と、万が一に備えた仕組みづくりが、最終的には安全で確実な大規模修繕工事の実現につながるといえるでしょう。





