大規模修繕工事の完成保証を導入する背景
管理組合の理事たちは、住民の代表として大規模修繕工事を進めるにあたり、住民から集めた大切な修繕積立金を使い、数千万円~数億円となる工事を適正に実施しなければならないという大きなプレッシャーを感じています。
「失敗してはいけない。」
管理組合にとって大規模修繕工事の「失敗」とは、①長期修繕計画(予算)より高い工事費になること、②施工ミスや瑕疵のある工事となること、③工事中に施工業者が倒産してしまったり、工事後に施工ミスや瑕疵が発見された時に施工業者が倒産していたり、業者の倒産により、管理組合に想定外の追加の費用負担をさせてしまうこと、などがあります。
多くの管理組合は、①の対策として「設計監理方式」により、管理組合の味方となる一級建築士設計事務所のサポートによって、適正な工事を適正な費用で実施できます。②や③の対策も設計監理方式で一定のカバーができます。しかし、施工業者の倒産に関しては、設計監理方式でも防ぐことはできません。施工業者の決算書を綿密にチェックしても経営状況が急激に悪化したり、施工業者が粉飾決算をしていたら効果はありません。
そこで管理組合は、施工業者を選定する入札条件に、「完成保証制度を利用すること又は同業者の完成保証人を確保すること」と、記載して「完成保証」によって業者倒産に備えてきました。
しかし、この「完成保証」に関して、管理組合が考えている保証内容と、実際の「完成保証」の内容に大きな乖離があるかもしれないのです。
管理組合が考えている完成保証とは、「工事中に施工業者が倒産しても、完成保証制度や完成保証人である同業者によって、管理組合が追加の費用負担をすること無く、工事を完成してもらえる。」というものです。
完成保証制度・完成保証人の問題点
では、実際に修繕業界で利用されている様々な完成保証制度や完成保証人の内容は、どのような保証内容なのでしょうか。ここでは、代表的な完成保証制度・完成保証人の保証内容を解説します。
完成保証制度
まずは完成保証制度について解説します。
ケース1:保証金には使途制限や上限がある
完成保証団体Aの保証内容は、「仮設足場等の再仮設費用に限定して、上限100万円までの金銭負担をする。」とあります。
使途は仮設足場等の再仮設費用などに制限があります。
保証金は100万円までと上限が定められています。
工事中に業者が倒産すると、①倒産した施工業者側の弁護士と協議をするために管理組合が依頼する弁護士費用、②工事停止中の現場管理費用、③どこまで工事が出来ていて、残りの工事は何があるのか専門の建築士が調査をする出来高査定費用、④工事を引き継ぐ業者を選ぶ代替履行業者選定費用、⑤工事後のアフター保証費用・瑕疵保険加入費用、その他想定できない費用が一定必要となります。
つまり、上記の保証内容では、管理組合が考えている「追加の費用負担無し」にはなりません。
当センターの調べでは、工事再開完了に向けて必要となる費用の目安は、工事費の10%または1000万円程度となっています。(※この数字はあくまでも当センターが調べたもので概算となります。実際にはこの数字を上回る場合もありますので、詳しくは専門家にご相談ください。)
ケース2:工事完成保証のための「資力確保」が困難
完成保証団体Bの保証内容は、「工事中に施工業者が倒産した場合、責任をもって団体が工事を完成させる。」とあります。この内容を見ると、管理組合が考えている保証内容になっています。
しかし、ここで問題なのはこの団体の「資力」(いわゆる保証準備金の額)です。完成保証団体Bは、保証業務を主とする団体ではなく、あくまでも施工業者が会員となって、施工技術促進や業務拡大のために設立した団体です。
そのような団体に、完成保証のために使う「資力」が十分に確保されていない可能性があるのです。
団体の会員業者の工事費が、仮に1件5000万円とした場合、1年間で数件~数十件の保証したとすると、数億~数十億円の総工事費となります。
全ての工事で業者倒産となる可能性が低いですが、何があっても確実に保証ができる「資力」を確保しておく必要があります。最低でも数千万円~数億円の費用が必要になります。それだけの費用が団体には保証準備金として確保されているのでしょうか?しかも、この費用はもっと大きな金額になる可能性もあるのです。
そういった「保証準備金」つまり、「資力」が十分に確保できていない可能性があるのです。それは、管理組合に保証するとしていた、工事完成が実現できないという可能性があるということです。さらに、保証をするという団体が万が一破綻した場合の救済措置が無いと、ケース1もケース2も、保証は全て白紙となってしまいます。
完成保証人(同業者による保証)
ケース3:同業者が完成保証をする難しさ
前記ケース1やケース2で、施工業者が会員となっている団体の完成保証には問題点がありました。「完成保証人」というしくみは、その完成保証を同業者である施工業者が行う、というものです。
同業者が完成保証をするにあたり、ケース1やケース2のように、①費用負担の問題、②保証準備金の問題、③破綻した場合の救済措置の問題があり、実際に同業者が完成保証するには、団体以上に難しいと思われます。、ましてや資本関係の無い同業者が完成保証をすることは企業経営上も難しいでしょう。
まとめ
このように、管理組合が考えている完成保証の内容と、実際の保証内容には大きな乖離があると言えます。管理組合は、完成保証を考えるときに、十分にその内容を確認することが大切です。そのうえで、できるだけ管理組合の希望に合う保証内容の保証・保険制度を施工業者に加入してもらうと良いでしょう。
※当センターホームページの「無料資料ダウンロードページ」(各項目の「その他」の欄)に工事完成保証「保証内容の確認事項」という資料があります。これにより管理組合の皆さんが簡単に保証内容を確認することができます。
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最後に管理組合の皆さんにお伝えします。
工事中に業者が倒産しても、管理組合が追加の費用負担無しに、団体や保証・保険会社等が工事を完成してくれるという保証制度や保険制度はほとんどありません。
それは、大規模修繕工事だけでなく、新築工事、リフォーム工事などでも同じです。
工事中の業者倒産を完成保証するためには、大きな金額が必要になる場合があり、その金額を全て保証することはとても難しいということなのです。
一定の金銭保証は完成保証等を利用しても、それ以上に費用負担が必要となる場合があることを想定して工事に望まなければならないということになります。
※例外ケースとして、大規模修繕工事の施工業者の親会社(100%出資しているなど)が連帯保証人になる場合は、親会社が工事再開完了に要する費用負担をして、工事完成してくれる可能性はあります。
しかし、この場合も慎重に進めることが大切です。管理組合は完成保証の保証内容を書面に記載して、その書面に親会社の記名押印をしてもらうことが望ましいでしょう。
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当センターでは、日新火災海上保険(株)と共同開発した大規模修繕工事版の履行保証保険を取り扱っています。保証内容などに関しては以下のURLからご確認ください。
https://mansion-anshin.com/system/