マンションの大規模修繕工事は、建物の資産価値を維持し、居住者が快適な生活を送るために欠かせない重要な取り組みです。しかし、多額の費用や長期にわたる工事期間に伴い、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。本ブログでは、マンション大規模修繕工事における、よくある3つのトラブル事例とその対策について解説します。さらに、適切な保険の利用によってトラブルを未然に防ぐ方法や、工事成功のためのポイントについても触れていきます。
1.業者の倒産による工事中断
トラブルの概要
大規模修繕工事の途中で施工業者が倒産するケースは、マンション管理組合にとって深刻な問題です。このような事態が発生すると、工事が中断し、スケジュールが大幅に遅れるだけでなく、工事再開のために倒産した施工業者の破産管財人(概ね弁護士のケースが多いです)と協議したり、残工事はどのような内容なのかを建築士に調査してもらうなど、また、その残工事を引き継ぐ新たな業者を探す必要が生じます。その結果、弁護士や建築士その他専門家へ支払う追加費用が発生し、住民間で費用負担をめぐるトラブルが発生することもあります。
具体例
あるマンションでは、大規模修繕工事開始後2か月で施工業者が倒産しました。その結果、工事は中断し、管理組合はどこに相談してよいかわからないまま、自ら新たな業者を探すために数か月を費やしました。この間に追加費用が発生し、住民間で費用分担をめぐる意見対立が起きました。
防止策
■業者選定時の慎重な調査
施工業者の過去の実績や財務状況を徹底的に調査し、安定した経営基盤を持つ業者を選定しましょう。そのために財務状況をチェックしてもらう会計士など専門家に依頼することも確実な作業となります。管理組合だけ、設計事務所だけで、経営状況を判断するのはよくあるケースですが、当センターでは専門家(会計士等)のチェックをお勧めしています。
■履行保証保険の加入(加入は施工業者)
万が一、業者が倒産した場合、工事再開・完成に必要な費用として、保険会社から管理組合に保険金が支払われる保険です。この保険への加入を事前に確認することで、リスクを軽減できます。一番有名なのは、2022年10月に商品化された「日新火災海上保険の履行保証保険」です。なお、当センターでは工事再開・完成のために管理組合をサポートする「工事完成支援サービス」を行っています。残工事を引き継ぐ代替履行業者の紹介もいたしますので管理組合は安心です。しかし、履行保証保険への加入は義務ではなく任意のため、管理組合が業者選定する際の入札条件に「日新火災の履行保証保険に加入」と記載することで、施工業者は履行保証保険に加入することになります。
詳細はマンションあんしんセンターのホームページをご覧ください。
2.工事後の瑕疵(欠陥)・施工ミスによる品質問題
トラブルの概要
工事が完了した後に施工不良や品質問題が発覚するケースがあります。このような問題が生じると、再修繕(施工不良部分の補修)が必要となり、本来は工事を行った施工業者が対応します。しかし、①施工業者が瑕疵を認めない、②施工業者が補修する費用を自己負担できない、③施工業者が倒産したいる場合など、補修対応をしてもらえないトラブルが発生する可能性があります。そうすると管理組合または区分所有者に追加の費用負担が発生します。住民間の不信感が高まり、管理組合で問題が拡大してしまいます。
具体例
あるマンションでは、外壁塗装工事が完了して1年後に塗装が剥がれるトラブルが発生しました。調査の結果、不適切な塗料が使用されていたことが判明し、再施工が必要となりました。(瑕疵の例:給排水管からの漏水、屋上からの雨漏り、外壁タイル剥落、著しい外壁塗膜のひび割れ等)
防止策
■設計監理方式の採用
当センターでは、第三者の専門家を管理組合の味方につけて大規模修繕工事を進める設計監理方式を推奨しています。一級建築士資格のある設計事務所を設計・工事監理者として選任し、工事の進行状況や品質を厳密にチェックする方式です。以下3つのケースでは、管理組合が不利益を被る可能性がありますので十分な注意が必要です。①管理会社や施工業者へ直接工事を発注する(管理組合が直接施工業者とやりとりする場合、専門知識に乏しい管理組合は、工事内容や工事費用その他に関して対等に話し合いや交渉ができません。この対等ではない状態はリスクを伴うものと考えます。)、②一級建築士資格のない無資格コンサルタントに設計監理を委託する(建築知識に乏しいコンサルタントの可能性が高く適切な業務遂行が期待できません。)、③不適切コンサルタントへ設計監理を委託する(管理組合が工事費として負担する数千万円~数億円という大きな金額からバックマージンとして想定外の費用を掠め取られてしまいます。)
■瑕疵保険の契約(施工業者が加入)
工事後に発生した瑕疵を補償する費用が保険金として支払われる保険です。①施工業者が瑕疵を認めない、②施工業者が補修する費用を自己負担できない、③施工業者が倒産したなど、補修対応をしてもらえない被害にあわないように国土交通省が認可した保険制度です。しかし、加入は義務ではなく任意のため、管理組合が業者選定する際の入札条件に「瑕疵保険に加入」と記載することで、施工業者は瑕疵保険に加入することになります。
詳細はマンションあんしんセンターのホームページをご覧ください。
工事中の事故によるトラブル
トラブルの概要
大規模修繕工事の作業中に、住民が事故に巻き込まれるケースがあります。これらの事故は、物的被害、人的被害を伴い、さらに工事の遅延や法的責任問題を引き起こす可能性があり、管理組合にとって大きな負担となります。
具体例
あるマンションでは、修繕工事中に作業員が道路側の外壁上階の足場から金属製のパイプを落下させてしまい、通行者が重傷を負う事故が発生しました。この事故により工事が3か月以上遅延し、管理組合及び重傷を負った通行者との損害賠償問題がが巻き起こりました。
防止策
■事故は起こさない事前対策(施工業者の安全計画の策定と徹底した教育)
工事開始前に詳細な安全計画を立て、作業員全員に安全教育を徹底することが必要です。これらについては管理組合がチェックや指導をすることはむずかしいため、設計監理方式において担当の一級建築士に任せて対策を行ってもらうことをお勧めします。
■工事保険の加入(施工業者が加入)
工事中、工事後の事故や損害を補償する保険を活用することで、万が一の際も迅速に対応できます。対人・対物事故の損害賠償金額等が適切に設定されている工事保険に加入している施工業者に工事を発注するようにしましょう。一般的には設計監理方式における担当の一級建築士が確認することが多いですが保険の専門家ではありません。当センターでは適切な補償内容なのかの確認など行っていますのでお気軽にご相談くださいませ。
大規模修繕工事を成功に導くためのポイント
- 業者選定の慎重さ 過去の実績や財務状況を十分に調査し、信頼できる業者を選びましょう。
- 保険制度の活用 ①履行保証保険、②瑕疵保険、③工事保険の3種類を有効に活用することで、予期せぬトラブルへの備えを万全にしましょう。
- 住民との連携 定期的な説明会や情報共有を通じて、住民全員の協力を得る体制を整えましょう。
- 長期的な視点での計画 修繕工事は短期的な課題解決だけでなく、建物の長期的な維持管理を見据えて計画を立てることが重要です。
まとめ
マンションの大規模修繕工事は、住民全員にとっての大きなプロジェクトです。発生しうるリスクを把握し、適切な対策を講じることで、トラブルを未然に防ぎ、工事を円滑に進めることができます。特に保険の活用は、予期せぬ事態への対応を強化する上で重要です。専門家のアドバイスを取り入れながら、信頼できる業者と協力して工事を成功に導きましょう。
また、修繕工事後のアフターケアや定期点検を行うことで、マンション全体の資産価値をさらに高めることが可能です。大規模修繕工事の計画を進める際には、この記事の内容を参考にし、安全でスムーズな工事を実現してください。
最後に、住民全員が協力して取り組むことで、修繕工事が建物の価値を高めるだけでなく、コミュニティ全体の結束を強める良い機会となることを期待しています。