業者選びの「ポイント」と「条件」はこれだ!
マンション管理組合にとって、大規模修繕工事は工事金額が数千万円~数億円と大きな金額をかけて行われる大事業です。施工業者(以下「業者」という)選びを誤れば工事中の事故・倒産、工事後の瑕疵・不具合等のトラブルで管理組合の経済的損失はもちろん、建物価値の低下=資産価値の下落という重大な問題につながります。
それでは「絶対に失敗しない!大規模修繕工事・業者選びのポイント」とは何でしょうか。本コラムでは管理組合の皆さんが失敗しないための大切なお話しをさせていただきます。
まず最も重要なことは、どんな「施工方式」で大規模修繕工事を進めるのか管理組合として方針を決めて進めることです。
「施工方式」は、「責任施工方式」、「設計監理方式」、「CM方式」の3つに分けられます。この「施工方式」は業者の選び方というよりも、管理組合がどのような方法で大規模修繕工事を進めるのかという「大規模修繕工事の進め方」となります。つまり、「施工方式」によって業者の選び方も変わりますので大規模修繕工事の計画段階で「施工方式」を決める必要があります。そこで、3つの方式のメリットとデメリットを説明し、管理組合の皆さんに正しい「進め方」を選択いただけるようにします。
責任施工方式とは
責任施工方式は、設計(工事計画作成)から施工まで一貫して同じ業者が行います。建築・技術知識に乏しい管理組合にとっては業者が「本当に信頼ができて施工技術もあり、適正な工事金額」であれば、3つの方式の中で最も低コストで一定品質の工事が手間をかけずにできる方式です。
メリット
- 設計と施工が同じ業者で一元化されるため、計画、設計、施工、施工後と全て対応先が同じで、シンプルにやり取りできて認識のずれや誤解・ミスが少なくなる。
- コスト削減の期待ができる。
デメリット
- 設計と施工が同じ業者のため「適正の可否判断のチェック機能」が管理組合のみで、適正な工事実施が難しい。つまり工事の成功には業者の信頼性や施工技術が高いことが絶対条件となる。一方、そういった業者をどうやって探すのかは、とても難しい作業となる。
- 全て管理組合が業者とやり取りをするため、管理組合の作業負荷が大きい。
以上から、責任施工方式は、規模が小さいマンションで、管理組合内に大規模修繕工事に詳しい住民がいる場合にオススメの方式となります。工事に詳しい住民を中心に住民同士が協力し合い、分担して進めることで一定のチェック機能と作業負荷の軽減ができます。
設計監理方式とは
設計監理方式は、業者とは別に一級建築士(設計事務所)が修繕ノウハウを駆使して、計画から施工監理、工事後のフォローまでを管理組合の立場に立って進めるため第三者的なチェック機能が十分に働きます。業者は設計事務所の指示どおりに施工を行うことで一定品質の工事が実現できます。
メリット
- 上記のとおり、設計と施工を担う企業が別々なので、互いのチェック機能が働く。特に管理組合側に専門家がつくため大規模修繕工事を適正に進められ、管理組合の負荷軽減にもなりメリットは大きい。
- 一級建築士の専門性を活かした高品質な工事が期待できる。
デメリット
- 設計コストが増える可能性がある一方で、設計事務所が行う建物劣化診断により必要な工事のみを工事対象とすることで工事金額が圧縮できるため、結果として設計コスト以上のコスト削減が図れると考えられる。
- 設計と施工の責任範囲が不明確なため、施工に関し問題が発生した際の保証責任が複雑になる可能性がある。一般的には、施工内容に関し発注者や設計事務所が業者に指示をした場合、業者が異議申し出をせず指示を容認して施工した場合に発生した問題は、業者に責任が及び、発注者や設計事務所に対し業者が異議申し出を行ったにもかかわらず、発注者や設計事務所が業者の申し出を認めず、そのまま施工するよう指示した結果、発生した問題は、発注者や設計事務所に責任が及ぶと解釈されている。詳しくは法律等の専門家にご相談することが望ましい。
以上から、一般的なマンションが大規模修繕工事を行う場合、この「設計監理方式」を選ぶことが最適と考えられます。しかし、ここでも信頼性、修繕ノウハウがある設計事務所(大規模修繕工事コンサルタント)を選ぶことが課題となります。詳しくはコラム「絶対必要!大規模修繕工事コンサルタントの選び方と役割」を参考にしてください。
CM方式とは
CM方式(コンストラクション・マネージメント)は、専門的な知識を持つコンストラクション・マネージャー(以下「CMr」という)が管理組合と業者の間に入り、工事計画から施工までの全プロセスを統括・管理する施工方式です。CMrは管理組合の立場に立ってコスト管理、スケジュール管理、品質管理も行います。
メリット
- 大規模修繕工事は、元請業者から一次下請け、二次下請けへと発注する複層構造の仕組みや、コストの中身が見えにくいブラックボックス的な状況がある。CM方式では、CMrが仕組み、コスト、材料などをオープンにしてシンプルな仕組みとし、コスト削減も行う一方で、各業者に対し適正な利益を確保して進めることで「優良な工事が行われる仕組み」をつくりあげる。
- 専門的な知識を持つCMrが全体を統括管理(施工もCMrが業者の上に立って進める)するため、計画から施工までの工程がスムーズに進行する。コストや品質、スケジュールなど細かい調整が可能で、管理組合の要望に対応しやすい。
デメリット
- 「実力があるCMrの存在」が不可欠となる。そのため、CMrの実力の有無が工事全体に大きく影響を及ぼすことになる。
- 既存の進め方の無駄を省く一方で、業者の利益確保や、各ステップで綿密なチェック作業を行うことによる工期の長期化など、結果的にコスト増となる可能性がある。
- CMrの報酬もコスト増になる可能性がある。
以上から、CM方式は理想的な仕組みですが、修繕業界内に実力のあるCMrが少ないこと、CM方式の実績がある業者も少ないことが大きなネックとなり、とても難易度が高い方式です。管理組合が大規模修繕工事でCM方式を採用するには、次の条件が必要です。
- CM方式の複雑な仕組みや進め方の理解をする能力を持つ
- 各工程を管理組合も確認して進める時間的な余裕や知識がある
- 工事金額が高額となり工程が長くなっても「高品質の工事を理想的な仕組みで進めたい」という高い志を持つ
これらの条件を満たすマンションにとって、CM方式は適していると思います。
具体的な選択条件も明確にすること!
大規模修繕工事の「業者の種類」は「総合建設業者」、「専門業者」、「管理会社」と、大きく3つのカテゴリに分かれます。管理組合の皆さんは、それぞれの特性を理解して業者選びを進めましょう。
総合建設業者とは
総合建設業者とは、設計から施工までの全ての工程を一手に担うことが可能な業者です。新築工事がメインなため、通常は子会社が大規模修繕工事を受注しているケースが多いです。
メリット
- 大規模な工事を請け負うことができ、下請業者も豊富に従えているため万全の体制で工事に臨むことができる。
- 多様な経験と専門知識を持つ社員がいるため、管理組合の幅広いニーズに対応が可能。例えば、「屋上防水・外壁改修工事」と「耐震改修工事」や「省エネ工事」を複合的に進める工事などが含まれる。
デメリット
- 会社規模が大きいため新築工事に比べ規模が小さい大規模修繕工事はコストが高くなりがち。
- ビル・マンションの新築工事が専門のため「既存マンションの修繕工事という専門領域」に特化した知識や技術が求められる場合は対応が難しい可能性がある。なお、子会社が受注をする場合も同様と思料。
改修専門業者とは
改修専門業者とは、大規模修繕工事(①屋上防水工事・外壁改修工事、②設備工事・給排水管工事)に特化した知識と技術を持つ業者です。
メリット
- 修繕工事に特化した知識と技術を持っており、高品質な工事が期待できる。
- 専門性が高いため、特定の工事に対するコストパフォーマンスが高い。
デメリット
- 幅広い工事に対応することは難しい可能性がある(耐震改修工事や省エネ工事などを複合的に進める工事など)。
- 屋上防水・外壁改修工事のみに特化している、あるいは給排水管路工事・設備工事のみに特化しているという専門業者が多く、それぞれを同時に進める場合、業者同士の調整が円滑に行われない可能性がある。
管理会社とは
管理会社とは、マンション管理業務を行う会社です。大手管理会社などでは大規模修繕工事を積極的に自社で受注しているケースがあります。
メリット
- 管理業務を委託されているマンションの状況を良く理解しており現状の課題に適した工事が可能。
- 管理業務と修繕工事が同じ企業となるため、管理組合との連携がスムーズになる。
- 管理業務で今後も取引が続くため、大規模修繕工事のアフター対応を親身に行ってもらえる可能性がある。
デメリット
- 大規模修繕工事に対応できる社員の能力や経験、社員数が限られている場合がある。
- 実際の工事は、改修専門業者に下請発注をするため、それぞれの下請業者の特性が施工品質に反映され統一性がない。
- 改修専門会社に下請発注するため、管理組合が直接改修専門業者に発注するよりもコストが高くなる可能性がある。
- 最近は管理業務に関し、管理会社側から管理組合に対して管理業務の解約を申し出るケースが増加している。つまり「管理業務を委託しているから大規模修繕工事も親身になって対応してくれるし長期保証も安心だ」という管理組合の期待は、今後は難しくなっていく方向にある。
具体的な業者選びの条件については、①同規模マンションの施工実績、②経営状況(売上・資本金規模含む)、③資格取得者の有無、④見積金額の詳細項目の比較、⑤工事完成保証や履行保証保険・瑕疵保険への加入、⑥同エリアの実績などをしっかりと入札条件に組み込み、自分たちのニーズに最も合った業者を選ぶことが大切です。
特に、①同規模のマンションの施工実績や⑥同エリアの実績は、管理組合が求める一定の工事品質を実現できるかの重要な指標となります。
②経営状況の条件は、売上や資本金の条件を高くしすぎると入札参加できる業者数が少なく絞られてしまい、入札効果が薄れてしまう危険性があるので条件は緩和してください。さらに工事中・後にトラブルが発生しても、管理組合に対し確実に保証対応をしてもらえる保証体制を整えている業者を選びましょう。
具体的には、工事保険(請負業者賠償責任保険/生産物賠償責任保険)、工事完成保証・履行保証保険、瑕疵保険にしっかりと加入がされるように、管理組合は自ら業者選定の入札条件にこれらすべての保険への加入をリクエストしましょう。これらは管理組合の「経済的損失の備え」となる重要なものです。
最後に、管理組合に注意してほしいのは、安い工事金額を最優先して規模の小さい業者や経営状況の良くない業者に工事発注しないようにすることです。通常より安い工事金額の裏には「手抜き」や「低品質の材料使用」など必ず理由があるものです。
業者選びは一見難しそうに思えるかもしれませんが、ポイントを押さえれば失敗は避けられます。事前に十分な準備をして自身のマンションに最適な業者を選びましょう。
参考文献:大規模修繕の手引きダイジェスト版(住宅金融支援機構)
https://www.jhf.go.jp/files/400359617.pdf
参考文献:建築専門家の選び方(マンション管理センター)
https://www.mankan.or.jp/06_consult_arc/04_syuzen/04_syuzen_1848.html