こんにちは!事務所が渋谷にある、渋谷貴博です。
私は35年間マンション業界で働いてきました。またプライベートでは、マンション(埼玉県さいたま市・総戸数812戸)に住んで、修繕委員、副理事長、理事長経験があります。そんな私が管理組合役員の皆さまの役に立つ情報を発信します。
マンション管理組合が知っておくべきコスト削減の考え方
大規模修繕工事費が高騰している背景
▶建設費の上昇とマンション修繕費の増加
近年、マンションの大規模修繕工事費は全国的に上昇傾向にあります。国土交通省や民間調査機関が公表しているデータでも、ここ数年でマンション修繕費は大きく上昇していることが示されています。特に2020年代に入ってからは、建設業界全体のコスト上昇が顕著となり、これまでと同じ仕様の工事であっても工事費が高くなるケースが増えています。
工事費上昇の最大の要因は、建築資材価格の高騰です。鉄鋼製品や塗料、シーリング材、防水材など、マンション修繕に使用される資材の多くが値上がりしており、その影響が工事費に直接反映されています。また、建設業界では慢性的な職人不足が続いており、人件費の上昇も工事費増加の大きな要因となっています。
さらに、仮設足場や運搬費などの間接費用も増加しています。大規模修繕工事では足場の設置が必須となりますが、この足場費用だけでも工事費全体の20%前後を占めることがあるため、コスト上昇の影響を大きく受ける項目の一つです。
こうした状況の中で、マンション管理組合が適切に工事を進めるためには、単に価格の安い業者を選ぶのではなく、工事内容や発注方法を工夫しながら適正なコストで工事を実施することが重要になります。大規模修繕工事は数千万円から数億円規模の事業となるため、発注方法や仕様の考え方によって工事費が大きく変わる可能性があります。
つまり、管理組合が適切な知識を持ち、無駄な工事や過剰な仕様を避けることができれば、工事の品質を維持しながら費用を抑えることが可能になるのです。マンションの資産価値を維持するためにも、適正な工事費で修繕を実施することは非常に重要な課題となっています。
大規模修繕工事の費用水準や工事内訳の傾向を把握するうえでは、国土交通省が公表している「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」も参考になります。
《参考》国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001477900.pdf?utm_source=chatgpt.com
劣化診断によって外壁補修費を適正化する
▶正確な劣化診断が工事費削減の第一歩
大規模修繕工事費を適正化するための最初のステップは、建物の劣化状況を正確に把握することです。特に外壁補修工事では、補修数量の算定方法によって工事費が大きく変わるため、劣化診断の精度が非常に重要になります。
マンションの外壁では、タイルの浮きや剥離、ひび割れなどの劣化が発生します。これらの劣化を適切に補修しなければ、雨水の侵入や建物の耐久性低下につながる可能性があります。そのため外壁補修工事は大規模修繕工事の中でも重要な工事の一つとされています。
しかし、外壁補修数量が曖昧なまま見積もりを取得すると、施工会社は安全を見て数量を多めに見積もる傾向があります。例えばタイル補修面積やクラック補修延長が実際より多く見積もられてしまうと、その分工事費が高くなってしまいます。
このような問題を防ぐためには、事前に詳細な劣化診断を行うことが重要です。劣化診断では、打診調査や赤外線調査などの方法を用いて外壁の状態を確認します。打診調査ではタイルを叩いて浮きの有無を確認し、赤外線調査では温度差を利用して外壁内部の異常を検出します。
これらの調査を適切に行うことで補修数量の根拠を明確にすることができ、施工会社から提出される見積もりの妥当性を判断しやすくなります。補修数量が明確であれば、施工会社も過大な数量を提示することができなくなるため、結果として工事費の適正化につながります。
つまり、劣化診断は単に建物の状態を確認するだけでなく、大規模修繕工事費を適正化するための重要なプロセスでもあるのです。
足場費用を抑える工事計画
▶仮設足場の使い方で工事費は大きく変わる
大規模修繕工事の費用の中で、特に大きな割合を占めるのが仮設足場費用です。マンションの外壁工事や塗装工事、防水工事を行うためには足場が必要になりますが、この足場費用は決して小さな金額ではありません。
マンションの規模にもよりますが、足場費用は工事費全体の15%から25%程度を占めることがあります。つまり足場の設置方法や利用期間を工夫することで、工事費を大きく削減できる可能性があります。
例えば、外壁補修工事、シーリング工事、外壁塗装工事、バルコニー防水工事などはすべて足場を利用して行う工事です。これらの工事を別々のタイミングで行うと、その都度足場を設置する必要があり、結果として仮設費用が増えてしまいます。
そのため大規模修繕工事では、足場を一度設置したらその期間中に外回りの工事をまとめて実施することが重要になります。足場を最大限活用する工程計画を立てることで、足場の組み替えや追加設置を防ぐことができます。
また、足場設置期間が長くなるとその分仮設費用も増えるため、効率的な工程管理によって工期を適正化することも重要です。工事工程が適切に計画されていれば、無駄な待機時間や作業の重複を減らすことができ、結果として足場費用の削減につながります。

防水工事の仕様を適正化する
▶防水工法の選択が工事費を左右する
屋上防水工事はマンションの大規模修繕工事の中でも特に重要な工事です。防水性能が低下すると雨水が建物内部に侵入し、コンクリートの劣化や漏水事故の原因となるため、適切な防水工事を行うことが必要です。
しかし、防水工事は工法や仕様によって工事費が大きく変わることがあります。マンションの防水工事には、ウレタン防水、シート防水、アスファルト防水などさまざまな工法があり、それぞれ耐久性や施工方法が異なります。
例えば既存防水層の状態が良好であれば、既存防水層を撤去せずに上から新しい防水層を施工する改修工法を採用することができます。この方法を採用すれば撤去費用や廃材処分費を削減できるため、工事費を抑えることが可能になります。
また、防水材料のグレードを適切に選ぶことも重要です。安価な材料を選んで短期間で再修繕が必要になるよりも、耐久性の高い材料を選んだ方が長期的にはコストを抑えられる場合もあります。
つまり防水工事では、単に初期費用の安さだけでなく、耐用年数やメンテナンス費用を含めたライフサイクルコストを考慮して仕様を決定することが重要になります。
設計監理方式による工事費の透明化
▶第三者監理が工事費適正化につながる
大規模修繕工事費を適正化するためには、発注方式の選択も重要です。多くのマンションでは設計監理方式が採用されています。
設計監理方式では、設計事務所や修繕コンサルタントが工事仕様書を作成し、その仕様書をもとに施工会社から見積もりを取得します。そして見積もり内容を比較検討したうえで施工会社を選定します。
この方式の大きな特徴は、施工会社とは独立した第三者が工事内容を監理する点です。第三者が工事内容をチェックすることで、施工会社による過大な見積もりや不要な工事提案を防ぐことができます。
また工事が始まった後も、施工内容が仕様書通りに行われているかを確認する役割を担うため、品質管理の面でも大きなメリットがあります。
設計監理方式を採用することで工事費の透明性が高まり、管理組合としても安心して工事を進めることができるようになります。
支払条件の見直し
▶出来高払いによる資金管理の適正化
大規模修繕工事では支払条件も重要なポイントになります。従来の工事契約では着手金や中間金などの前払いが多いケースがありました。
しかし着手金が大きい場合、施工会社が万が一倒産した場合に管理組合が損失を被る可能性があります。そのため近年では工事の進捗に応じて支払いを行う「出来高払い」が注目されています。
出来高払いとは、工事の進捗状況に応じて支払いを行う方式であり、工事が実際に進んだ分だけ支払う仕組みです。この方式を採用することで管理組合の資金流出を抑えることができ、工事リスクを軽減することができます。
まとめ
▶管理組合の工夫で工事費は大きく変わる
マンションの大規模修繕工事費は年々上昇していますが、発注方法や仕様を適切に検討することで費用を抑えることが可能です。
特に劣化診断、足場活用、防水仕様、設計監理、支払条件の見直しなどは、工事費削減に大きな効果があります。
管理組合が適切な知識を持ち、専門家の力を活用しながら工事計画を進めることで、品質を維持しながら無駄な費用を削減することができます。
マンションの資産価値を守るためにも、大規模修繕工事を戦略的に進めることが重要です。





