こんにちは!事務所が渋谷にある、渋谷貴博です。
35年間マンション業界で働いてきました。またプライベートでは、マンション(埼玉県さいたま市・総戸数812戸)に住んで、修繕委員、副理事長、理事長経験があります。そんな私が管理組合役員の皆さまの役に立つ情報を発信します。
今回は、最近話題になっている「大規模修繕工事の談合」について、わかりやすく解説をしていきます。
マンションの大規模修繕工事は、管理組合が長年積み立てた修繕積立金を使用します。また、その工事費は数千万円~数億円となります。大規模修繕工事は管理組合にとって、このようにとても大きな金額を負担する重要なプロジェクトです。そんなプロジェクトを脅かす問題が「談合」です。
管理組合が大規模修繕工事の「談合」を防ぐことは、大規模修繕工事を成功させる大きくな要素の一つです。「談合」についてしっかり理解をして、確実に防ぐ取り組みを進めましょう。
1.大規模修繕工事における談合とは?
大規模修繕工事における「談合」とは、管理組合が施工業者を選ぶ入札等で行われます。この入札等に関わる施工業者の複数社が、価格競争をせず、高めの工事費で工事受注ができるように、事前に口裏を合わせて、工事費や受注者を決めてしまう仕掛けです。
一方で、管理組合には適切に入札等が成立したかのようにする、管理組合を欺く行為です。結果として管理組合は知らないうちに、高めの工事費を支払わされたり、品質の低い工事が行われたりと、大切な修繕積立金を掠め取られてしまいます。
マンションの大規模修繕工事においては、次のような形で「談合」が行われることがあります。
- 特定の施工業者が工事を受注するように複数の施工業者で調整する
- 複数の施工業者が、事前に価格を調整し、意図的に高い価格で入札をする
- 受注後の実際の工事において、入札条件より低いレベルの仕様で施工することで、入札条件と実際の工事の差額だけ利益を得る
これらは、本来管理組合の味方となるべき管理会社、コンサルタント、設計事務所が施工業者側にたち、施工業者と結託し、特定の施工業者に有利となる受注条件を設定するものです。また、類似のケースとして、管理会社が元請けとなり大規模修繕工事を受注する場合も上記のような裏工作が行われている場合があります。
管理会社は管理組合に対して、自社の工事費が適正であることを証明するために、関係業者から相見積もりを取得します。しかし、この時に関係業者に対して、自社の工事費より高い金額提示をするように指示します。これにより、管理会社の工事費が最も低く又は同等となり、管理組合は管理会社を選ぶことになります。このように、適正な価格競争が行われずに、管理組合が高い工事費を負担させられる状況も一つの「談合」と言ってよいでしょう。
このような不正が行われると、管理組合にとっては適正価格、適正工事が見えにくくなり、結果的に本来より高額な工事費を払うことになります。
2.どうして「談合」が起こるのか?
談合が発生する背景には、いくつかの課題があるのです。
(1) 管理会社・コンサルタント・設計事務所と施工業者の癒着
管理会社やコンサルタント・設計事務所が大規模修繕工事の発注に関与すると、管理組合が直接施工業者に発注するよりも、第三者のチェック機能が働いて、工事内容・工事費が適正な条件で工事発注ができるというメリットあります。一方で特定の業者と結託をして有利な条件を作りやすくなるというデメリットもあります。
(2)管理組合の専門知識不足
管理組合の理事会は通常、建築や工事に詳しくない住民の集まりです。施工業者の提示する条件が適正かどうかを判断するのが難しいです。
(3)マンション住民の関心の薄さ
多くのマンション住民は管理運営に無関心な傾向があります。当然に施工業者選定の入札や工事請負契約に関心を持たず、不透明なプロセスが温存されやすくなります。
(4)入札制度の不備
大規模修繕業界における施工業者選定の入札制度は、法整備や入札制度のルールが整備されておらず、正しい競争環境が整っていません。結果として裏工作がしやすく「談合」が発生しやすくなります。

3.談合を防ぐための具体的な対策
前項のように、管理組合が業者任せにしていると、談合の危険性が高くなります。大規模修繕工事を成功させるために管理組合が何としても談合をさせないことが必要です。そこで本コラムでは、管理組合が適正価格で工事を発注するために、行うべき談合対策を紹介します。
(1)管理会社やコンサルタント・設計事務所に丸投げしない
前項記載のように、管理会社やコンサルタント・設計事務所に丸投げをすると、不正の温床になる可能性があります。管理組合みんなで高い関心をもって、施工業者選定の中心となり、入札プロセスを透明化していくことが大切です。
(2) 複数の施工業者からの見積りを取得する
最初から1~3社など少ない業者に絞って進めるのではなく、管理組合自ら、売上規模・資格保有者数・工事実績・現場所長の経験等の条件を決めてから、10社以上の業者に声掛けをして見積もりを取り、価格等の条件を評価比較することが重要です。また、事前に適正価格の相場を把握することも有効です。
(3) 公開入札方式を採用する
できれば特定の業者に声をかける「指名競争入札」ではなく、広く一般に募集をかける「公開入札方式」を採用することで、癒着した複数業者以外の一般の業者からも見積もり取得ができます。公開入札方式は、業界専門新聞の「建通新聞」の公募コーナーに公募情報を掲載をして募集をするのが一般的です。
(4) 施工業者とコンサルタントの関係を遮断する
コンサルタントや管理会社が特定の施工業者と癒着しないようにすること。具体的には施工業者の選定を管理組合だけで行い、コンサルタント等には関与させないというものです。管理組合が公開入札方式で広く業者から見積もりを取得して、評価比較を行います。※当センターでは、セカンドオピニオンとして、見積もり取得後の「評価比較のサポート業務」を行います。お気軽にご相談ください。
(5)管理組合内に修繕委員会を設置する
管理組合内に「修繕委員会」を作り、業者選定の適正性をチェックする仕組みを整えるのも有効です。
(6) 外部の専門家を活用
弁護士や第三者のコンサルタント(建築士、マンション管理士など)に監修を依頼することで、チェック機能が高まりリスクを軽減できます。
(7) 住民説明会を開く、透明性を確保する
業者選定を行う前に半年~1年など、十分なスケジュールの余裕をとり、工事の内容や入札の計画や進捗状況などの過程を住民に報告・説明し、住民みんなに監視の目を増やすことで、不正を防ぐ効果があります。
まとめ
マンションの大規模修繕工事は、住民の財産である建物の維持管理をするための重要なプロジェクトですが、不透明なプロセスのもとで「談合」が発生すると、余分な工事費負担をしなければなりません。また、品質の悪い工事が行われるリスクもあります。管理組合が中心となって、「談合」をさせない環境作りをすることは最も効果的で、重要な対策となります。
大規模修繕工事を成功させるために、管理組合が高い関心を持ち、適正な発注が行われるよう監視の目を光らせましょう。
