大規模修繕工事の疑問:倒産しない工事会社は本当に存在するのか?
こんにちは!事務所が渋谷の渋谷貴博です。
前職で、瑕疵保険の営業をしていたとき、修繕工事に関するいくつかの疑問を抱く機会がありました。特に印象に残っているのは、とある管理組合理事長の言葉です。
「倒産しない工事会社を選んでいるから瑕疵保険は必要ない!」
この言葉を発した理事長は、かなりの自信を持って、この発言をなさっておられました。しかし、本当に倒産するリスクが全く無い、ということがあるのでしょうか?
その管理組合では、管理会社や設計事務所のサポートを受けながら、慎重に修繕工事を進めてきたそうです。特に、施工業者の選定に際しては、以下のような詳細なチェックを行ったとのことです。
- 社歴(会社の発展の過程)
- 工事実績
- 加盟団体
- 過去3年間の経営状況
このように多角的な視点から企業の信頼性を精査し、最終的に選定した工事会社に対して「倒産するはずがない」という確信を持っていたようです。さらに、通常工事完了後10年間は工事会社の保証がついているため、「つまり10年間は倒産しない!」と考えたのでしょう。
しかし、果たして本当にそう言い切れるのでしょうか?
経済環境の変動と企業のリスク
近年、国際情勢の変動やインフレの加速、エネルギー価格の高騰、サプライチェーンの混乱、気候変動による自然災害の影響など、企業経営に深刻な影響を与える要因が増え続けています。このような予測困難な外的要因により、安定しているように見える企業であっても、一瞬にして経営危機に陥る可能性は十分に考えられます。
また、これまで安定していた企業でも、内部告発やコンプライアンス違反が発覚し、社会的信用を失うことで経営不振に陥るケースもあります。実際に大企業であっても、経済評論家の解説によると「倒産しない企業など存在しない」というのが現実です。
私自身も、かつて売上300億円規模の企業に勤めていましたが、ある日突然破産を迎えました。その企業はジャスダックに上場しており、誰もが「安定している」と思っていた会社でした。それでも、倒産は現実のものとなったのです。
マンションの大規模修繕工事は、区分所有者が組織する管理組合が、数千万円から数億円という莫大な資金を投じる公共性の高い事業です。そのため、工事会社の選定にあたっては慎重な与信判断が求められます。しかし、現在多くの管理組合では、以下のような状況が見受けられます。
- 管理組合理事の主観的な判断に依存している
- 経営分析の専門知識を持たない管理会社や設計事務所のアドバイスを鵜呑みにしている
- 工事会社の過去の実績や経営状況だけを基に「倒産しない」と判断している
これは果たして適正な判断と言えるでしょうか?

公共性の高い大規模修繕工事だからこそ慎重な判断を
マンションの大規模修繕工事は、単なる一企業の取引ではなく、多くの住民の資産価値や安全に直結する重要なプロジェクトです。特に、工事の影響が長期間に及ぶことを考慮すると、短期的なコスト削減だけを重視するのではなく、長期的なリスクを見据えた合理的な判断が求められます。
大規模修繕工事においては、管理組合が投じる資金の規模が大きいため、企業の信用力を適切に評価し、将来的なリスクも考慮しなければなりません。たとえば、以下のような要素を慎重に分析することが重要です。
- 業界全体の動向(市場縮小や競争激化の影響)
- 企業のキャッシュフロー(資金繰りの安定性)
- 主要取引先の状況(取引先の倒産リスクがないか)
- 内部統制の強化(コンプライアンスリスクの管理)
これらを総合的に判断し、適切なリスク管理を行わなければ、「倒産しない」と断言することはできません。むしろ、万が一のリスクに備えて瑕疵保険の加入や履行保証保険を活用することが、管理組合としての適正なリスクマネジメントであるといえます。
また、企業の倒産リスクだけではなく、施工不良や工期の遅れ、契約上のトラブルといった問題も考慮する必要があります。 たとえ企業が存続していても、品質の悪い工事が行われれば、修繕のやり直しや追加費用の発生といったリスクが高まります。
このようなリスクを最小限に抑えるためにも、管理組合が行うべき最善の対応は、以下の3点に集約されます。
- 工事会社の財務状況や業界の動向を把握し、将来的なリスクを見極めること
- 万が一の事態に備え、瑕疵保険や履行保証保険を積極的に活用すること
- 主観的な判断に頼らず、第三者の意見を取り入れた合理的な意思決定を行うこと
「倒産しない工事会社を選んでいるから瑕疵保険は不要」という考え方は、一見もっともらしく聞こえますが、実際には倒産や瑕疵が発生するリスクは一定あるのです。大規模修繕工事の成功は、単に「信用できる企業を選ぶ」ことではなく、管理組合が主体となって、リスクに対する適切な備えを行うこと によって実現されるのです。
倒産リスクや施工不良のリスクを適切に管理し、安心して工事を進めるためにも、慎重な調査と合理的な意思決定を行うことが重要です。管理組合としては、住民の資産を守る責任を負っていることを認識し、リスクに対する適切な備えを怠らないことが求められます。
