大規模修繕工事を安心して進めるために
こんにちは!マンションあんしんセンターの渋谷貴博です。
2021年10月24日付の日本経済新聞一面に、「中小負債10年ぶり高水準」という記事が掲載されていました。記事によると、中小企業の資金繰りが悪化し、借入金を本業の利益で割った返済負担が2021年3月末には、2008年のリーマンショック後の水準にまで悪化しているとのことです。
2008年のリーマンショックを思い出すと、私自身が経験した倒産の苦い記憶がよみがえり、やはり不安がよぎります。記事は続き、現在の倒産件数は、政府の新型コロナウィルス対策(いわゆるゼロゼロ融資)が支えているため、半世紀ぶりに少ない水準にとどまっているとしていますが、零細企業の負債総額は50兆円を超えており、来年には企業の返済猶予期間が終了します。このままでは、収益力が回復しない企業の倒産件数が増加する可能性があるとのことです。
以前のコラムでも触れましたが、コロナ関連の倒産件数を見ると、業種別で「建設・工事業」が第2位となっており、倒産リスクが高いことがわかります。
建設・工事業の施工業者が倒産する理由には、いくつかの特徴的なパターンがあります。
1. 工事金額が大きい:一つ一つのプロジェクトが高額であるため、万が一、資金繰りが悪化した場合には、リスクも比例して大きくなります。大規模プロジェクトにおける金銭の流れを適切に管理できないと、最終的な資金不足に直面しやすくなります。
2. 工期が比較的長い:建設業界では、工事期間が長くなる傾向があり、長期にわたる資金調達や支払い計画が求められます。工事が長引くことで、予定していた収益が得られず、資金繰りが苦しくなることがあります。特に予期しない遅延やコストオーバーランが発生すると、さらなる負担がかかり、倒産リスクが高まります。
3. 多くの作業を外注している:外部業者や下請けに依存している場合、元請け企業が倒産のリスクを負うのはもちろん、外注先の企業が倒産してしまう可能性もあります。これにより、工期の遅延や追加費用の発生が生じ、元請け企業自体の経営にも深刻な打撃を与えることがあります。
実際、倒産に追い込まれる施工業者の多くは、こうした金額の大きさ、工期の長さ、外注費用の管理など、重要な要素に対して意識が低く、適切な数字管理ができていない企業が多いです。結果として、施工業者が倒産する原因は、単なる赤字経営ではなく、資金繰りの悪化が直接の要因となります。
では、どうして赤字ではないのに資金が回らなくなるのでしょうか?その傾向を以下にまとめます。
1. 施工業者自身が期の途中で最終的な利益を予測できていない:多くの施工業者は、プロジェクトが進行している最中に、期末の利益を適切に見積もることができていません。その結果、現時点での経営状況がどの程度良好かを把握できず、無計画な経営が続くことになります。
2. 日々の資金繰りのため、収益性が低い現場でも工事を受注してしまう:資金繰りが厳しいと、たとえ低い利益率であっても現場を受注せざるを得ない状況に陥ります。短期的な現金流入に目を奪われ、長期的な収益性を見失う結果、資金が枯渇してしまいます。
3. 入金されたお金は人件費や固定費に充て、外注業者への支払いが不足する:外注業者への支払いが後回しになりがちで、その結果、外注業者が不満を抱えたり、工事が滞ったりします。また、支払い条件が悪化すると、信用が低下し、さらなる資金調達が難しくなります。
4. 不足分は借入で賄おうとするが、それも限界があり、最終的には人件費削減や外注業者への支払い条件変更を行う:一時的に借入でしのごうとするものの、返済能力が伴わなければ、借入は長期的な解決策にはなりません。その結果、人件費や外注費の削減を余儀なくされ、工事の質や進行にも悪影響を及ぼします。
5. それでも支払いが間に合わず、銀行からの追加融資もストップし、資金が尽きて倒産に至る:最終的に資金が底を突き、銀行からの追加融資も受けられなくなると、倒産の道を歩むことになります。これらの要因が重なると、企業は自己破産せざるを得ない状況に追い込まれます。
こうした問題は、2008年のリーマンショックで破産した私が勤めていた上場企業にも多く当てはまっていました。当時は「ある日突然」倒産するものだと思っていましたが、実際には倒産の兆候があり、私自身ももっと早く経営状況を把握し、リスクを予測すべきだったと強く反省しています。
一方で、マンション管理組合の皆さんが、大規模修繕工事を発注する際、施工業者の倒産リスクを詳細に調査するのは難しいと思います。当センターでは、施工業者の倒産リスクに備える保証や保険を提供するだけでなく、リスクチェックのノウハウも豊富に備えていますので、ご安心ください。
「経営管理が甘く、資金繰りが行き詰まっていることに気づかない」や、「資金が回っているか、利益が残っているかを常に管理できていない」といった、危険な施工業者の傾向を見極めるための決算書のチェック方法なども、今後のコラムでお伝えしていきたいと思います。