こんにちは!事務所が渋谷にある、渋谷貴博です。
私は35年間マンション業界で働いてきました。またプライベートでは、埼玉県さいたま市の総戸数812戸のマンションに住んで、修繕委員、副理事長、理事長経験があります。そんな私が管理組合役員の皆さまの役に立つ情報を発信します。
5月17日(渋谷会場)、18日(横浜会場)に、マンション大規模修繕協議会主催のセミナーにて、大規模修繕工事「完成保証で大丈夫?」というテーマで講師を務めました。大規模修繕工事を控えるマンション管理組合にとって、施工業者が途中で倒産したらどうなるのか?工事は本当に完成まで保証されるのか?という不安は切実です。このセミナーでは、完成保証制度の現状や課題、そして本当に管理組合が備えるべきポイントについてお話ししました。
セミナー後、参加された理事や修繕委員の方々から「目から鱗だった」「完成保証という言葉に安心していたが、実はそれほど万全ではないと知った」といった声を多くいただきました。この記事では、その講演内容を振り返りながら、大規模修繕工事における完成保証制度の実態と、管理組合が本当に取り組むべきリスク対策について詳しくご紹介します。

完成保証制度に潜むリスクと限界
「完成保証があるから安心」と考えている管理組合の方は少なくありません。しかし、現場で数多くの修繕プロジェクトに関わってきた立場から申し上げると、その“安心感”は時として危ういものです。なぜなら、完成保証制度といっても一枚岩ではなく、仕組みや保証範囲は大きく異なるためです。
たとえば、一般的に用いられているのが「工事完成保証人方式」です。これは施工業者が別の施工業者(多くは同業者)を保証人として指定し、万が一倒産などがあった場合に保証人が工事を引き継ぐ、あるいは費用を補填するという仕組みに見えるのですが、実態は異なります。一見、万全の体制に見えるかもしれませんが、保証人となる施工業者はつきあいで工事完成保証人の欄に押印をしているだけで、実際に保証をするつもりはないのが実態なのです。たとえば、途中で工事が止まった際、残工事を新しい業者に発注するための資金が不足する可能性があります。結局、管理組合が持ち出しを迫られたり、修繕計画の遅延や品質低下につながるリスクもあるのです。
よく考えてみればわかります。資本関係の無い施工業者どうしが倒産した場合に数千万円、数億円もの費用負担をして保証をするわけがないのです。手続きが簡単、無料、管理組合が信じてくれる、こんな理由から工事完成保証人方式は利用されてきたのです。
さらに問題なのは、こうした保証人制度が談合の温床になりやすい点です。元請と保証人が結託しやすい関係にあることで、形式上は複数社で競争入札を行っても、実質的には裏で協力関係を築いてしまうケースがあります。こうなると、競争原理が働かず、適正価格での契約が難しくなり、結果として管理組合にとって不利益な契約となる恐れがあります。
一方で、近年注目されているのが損害保険会社による「履行保証保険」です。これは保険会社が施工業者の経営状況を厳しく審査したうえで、万が一の際には管理組合に保険金を支払って工事の完成を一定保証する仕組みです。より中立的かつ信頼性の高い保証といえますが、加入条件が厳しく、全ての業者が利用できるわけではありません。
このように、「完成保証」という言葉が一人歩きしている現状には大きな問題があります。本当に管理組合を守る保証制度とは何か、その実効性を冷静に見極める目が必要です。
真に備えるべきは「倒産しない施工業者の選定」と「契約内容の工夫」
では、管理組合としては何を基準に判断し、どのようにリスクに備えればよいのでしょうか。セミナーでは、完成保証の有無よりも、まず“倒産しにくい施工業者”を選ぶこと、そして“契約時にリスクを抑える条件を盛り込むこと”が大切だとお話ししました。
まず、施工業者の選定にあたっては、単に見積金額の安さや営業トークに惑わされず、経営基盤を客観的にチェックする必要があります。具体的には、直近の決算書、公共工事の受注実績、資本金、従業員数、銀行取引の状況など、経営面での健全性を確認することが重要です。当センターのホームページでは、日新火災海上保険の履行保証保険の審査を通過した企業リストを紹介していますが、これはまさに第三者の厳しい評価をクリアした企業の一覧であり、安心材料となります。
次に重要なのが、契約時の「支払い条件」の工夫です。従来は着手金として工事費の2~3割程度を先払いする契約が一般的でしたが、これは倒産リスクを高める要因にもなります。そこで推奨しているのが、「出来高以下払い」の支払い方式です。これは、進捗に応じて費用を支払うが、常に完成分よりも支払いを少なくするというもの。万が一、途中で施工業者が倒産した場合でも、未払い金が手元に残ることで、次の施工業者に工事を引き継ぎやすくなります。
さらに、工事監理についてもポイントがあります。設計監理方式を採用し、第三者である設計事務所が工事の進捗や品質をチェックする体制を整えることで、どこまで工事が進んでいて、何が未了なのかを正確に把握できます。これは、仮に工事が中断した場合でも再発注がスムーズになるだけでなく、手抜き工事や見えない瑕疵を未然に防ぐ効果もあります。
つまり、完成保証の有無に依存するのではなく、最初の業者選定から契約条件の組み立て、監理体制の構築までを総合的に見直すことこそが、管理組合にとっての最大の防衛策なのです。

まとめ:完成保証ではなく、安心を“つくる”選択を
大規模修繕工事「完成保証で大丈夫?」という問いに対して、私がセミナーでお伝えした結論は明確です。保証そのものに頼るのではなく、倒産しない施工業者を選び、倒産しても影響が最小限に収まる契約(支払い条件)を結び、工事監理体制を整える。これらを積み重ねることで、はじめて大規模修繕工事における“本当の安心”が得られるのです。
管理組合の皆さまにおかれましては、「完成保証があるから大丈夫」と思考停止せず、「そもそも完成保証に頼らなくて済む体制」を整えるという視点を持っていただきたいと強く願います。マンションの資産価値と住民の安心を守るために、今後も有益な情報発信を続けてまいります。
