必要とされるマンションの防火管理者
マンションでは多くの人が同じ建物で生活を共有しているため、一つの住戸から発生した火災により、近隣住戸や廊下、ベランダなどの共用部分へ被害が拡大する可能性があり、多くの生命や財産を脅かす可能性があります。そのため、マンションの火災対策は常に最優先されるべき課題となります。
戸建て住宅では防火管理者の選任は必要ありませんが、一般的なマンションでは防火管理者の選任が必要となります(建物の用途によって、収容人員が30名または50名以上の場合に防火管理者の選任が義務付けられます)。防火管理者とは、火災による被害を防ぐために防火に関連する業務を遂行する責任者のことを指します。しかしながら、防火管理者には誰でも立候補できるわけではなく、甲種または乙種防火管理者資格を取得するための防火管理者講習を受講した人だけが選任されることができます。
防火管理者を選任するのは誰かというと、基本的にはマンション管理組合の理事長がその役割を担います。マンション管理組合の理事長は「管理権原者」という立場にあり、防火管理上の最高責任者として、防火管理の実務を担当する防火管理者の選任義務が生じます。会社組織に例えると、理事長は代表取締役、防火管理者は防火事業部の部長というイメージでしょう。いずれにせよ、防火管理上の責任は、防火管理者と管理権原者である理事長が共同で担うことになります。なお、管理権原者である理事長が防火管理者を兼任することも可能です。
具体的な防火管理者の責務は次の通りです。
- 「防火管理に係る消防計画」の作成・届出を行うこと
- 消火、通報及び避難の訓練を実施すること
- 消防用設備等の点検・整備を行うこと
- 火気の使用又は取扱いに関する監督を行うこと
- 避難又は防火上必要な構造及び設備の維持管理を行うこと
- 収容人員の管理を行うこと
- その他防火管理上必要な業務を行うこと
- 必要に応じて管理権原者に指示を求め、誠実に職務を遂行すること
《出典》東京消防庁「防火管理者とは」https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/lfe/office_adv/jissen/p03.html
防火管理者が担う責務は、消防計画の作成、消防訓練の実施、消防用水や消防活動に使用する設備・施設の点検および整備、火の使用や取り扱いに関する監督、避難経路・防火上必要な構造・設備の維持管理など、専門的かつ広範にわたります。例えば、数十枚に及ぶ消防計画の作成については、その具体的な方法を防火管理者講習では教えてもらえないため、必要に応じて管轄の消防署に問い合わせるなど、正直なところ手間がかかります。
さらに、廊下や階段に私物が溢れて防火戸が機能せず、防火管理上の不手際が原因で人的被害が発生した場合、防火管理の最高責任者である管理権原者はもちろん、防火管理者も刑事責任を問われるリスクがあります。実際に、2001年に発生した「歌舞伎町ビル火災」では、防火管理上の不手際が原因で44名が命を失い、ビルのオーナーや店舗責任者に対して実刑判決が下されました。
《出典》毎日新聞「事件がわかる歌舞伎町ビル火災」https://mainichi.jp/articles/20220418/osg/00m/040/003000d
防火管理者を外部から探す
一般的に、防火管理者の役割は管理組合の役員が担当することが多いようです。しかしながら、防火管理者の業務は多岐にわたり、専門的な内容も多く含まれます。管理会社のサポートを受けて対応している管理組合も多いとは言え、マンション管理の専門家であるフロント担当者が必ずしも防火管理の専門家であるとは限りません。実質的に名義貸しといわれても仕方がない、実務を伴わない防火管理者の存在も確かにあります。しかしながら、住人の命を預かるという重要な使命を忘れることは許されません。
また、防火管理者が未選任のマンションが一定数存在し、それに伴い、消防計画も一部のマンションで届出がされていないという現状があることも事実です。これは極めて危険な状態であり、このような状況下で火災事故が発生すれば、管理権原者である理事長の責任が問われるリスクが増します。さらに、管轄の消防署が実施する立入検査において、防火管理者の未選任や消防計画の未届出が指摘されることは必至と言えます。
防火管理者は、理想的には住人の中から選任されるべきですが、どうしても難しい場合には、防火管理者の外部委託サービスを検討するという手段も存在します。法改正により、一定の条件が満たされれば、防火管理者の業務を委託することが可能となりました。ただし、管轄の消防署からの外部委託の許可が得られることが前提となります。防火管理者の外部委託サービスはいくつか提供されていますが、重要なことは、そのサービスが実際の防火管理者業務を伴うものであるかという点です。業者を選択する際の具体的な判断基準は次の通りと考えます。
- 日常の防火管理業務を実施している(月1回以上、防火管理に特化した点検を実施し、その証跡として報告書を作成して提出する)
- 規定回数以上の消防訓練を毎年実施する
- 消防署による査察の対応を伴う
- 実務を反映させた消防計画の作成と届出をしている
- 万が一火災事故が発生した場合、日常的な防火管理の実施を証明するために、消防や警察等への説明義務を果たす
安価なサービスを提供する業者の中には、現場であるマンションに足を運ばず、日常の防火管理業務を十分に実施していないケースが散見されます。このような場合、住人の生命や財産、そして管理権原者である理事長の保護につながらない可能性があるため、十分な注意が必要です。
参考として、防火管理者の外部委託サービスを展開している会社をご紹介します。
ユニバーサルリスクソリューション株式会社(日新火災海上保険の完全子会社)https://www.ur-slt.co.jp/
株式会社メルすみごこち事務所(業界一の受託実績)https://e-chintaiowner.com/