こんにちは!事務所が渋谷にある、渋谷貴博です。
私は35年間マンション業界で働いてきました。またプライベートでは、マンション(埼玉県さいたま市・総戸数812戸)に住んで、修繕委員、副理事長、理事長経験があります。そんな私が管理組合役員の皆さまの役に立つ情報を発信します。
マンション総会が活性化しない原因とその背景
多くのマンション管理組合が抱える共通の悩みは、「総会に住民が来てくれない」「議案への理解が進まない」「住民の関心が薄い」という問題です。本来、総会は管理組合の運営方針を決める最高意思決定の場であり、管理費や修繕積立金の改定、大規模修繕工事の実施、設備更新の判断など、マンションの資産価値に直結する重要な事項が決議されます。しかし、その重要性とは裏腹に、参加率は低く、議案の理解度も十分とはいえません。その結果、形式的に承認されるだけの“セレモニー化した総会”になってしまうケースも少なくありません。
総会が盛り上がらず、議論が深まりにくい背景には、住民にとって議案書が「読みにくい」「難しい」「何を決めるのか分からない」ものになってしまっているという構造的な課題があります。管理会社が作成した資料がそのまま議案書に採用されることも多く、専門用語が多い説明や長文での解説が続く場合、読み手である一般住民は途中で理解を諦めてしまいます。結果的に、「何が議案なのか」「自分に関係があるのか」が伝わらないまま、総会への参加意欲も湧かなくなってしまうのです。
総会の活性化は、住民の関心と理解を得ることから始まります。その中心的なツールである議案書を、住民が読みやすく、理解しやすく、参加したくなる内容へと改善することが、総会を成功に導くための最も重要なステップです。
国土交通省「マンション標準管理規約」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/mansionkiyaku.html
結論ファーストで伝わる議案書の構成とは何か
議案書を作るうえで最も重要なのは、「住民が最初の数行で何を決める議案なのか理解できること」です。総会に参加する住民は管理の専門家ではなく、資料に長時間向き合う時間も限られています。最初に結論が示されていない議案書は、読み進めるほど混乱が生じ、参加意欲の低下を招きます。そのため、議案書の構成は結論ファーストが原則となります。
結論ファーストとは、まず「何を決めるのか」を最初に明示し、その後に理由や背景、比較検討の過程、今後の影響などを順に説明する構成のことです。例えば「大規模修繕工事の実施議案」であれば、冒頭に「〇〇年度に大規模修繕工事を実施し、総額〇〇万円の支出を承認いただく」と端的に示します。その後に「工事が必要な理由」「見積り比較の結果」「選定業者の選定理由」「工事内容の概要」「費用負担と支払い条件」「工事のスケジュール」という流れで説明すると、読み手のストレスが大幅に軽減されます。
住民が知りたいのは、「何を決めるのか」「どうして必要なのか」「どの程度の負担が生じるのか」「理事会はどのように判断したのか」という4点が中心です。この順序を逆転させてしまうと、必要以上に長文が続き、住民の理解を妨げる要因になります。総会活性化のためには、議案書自体が住民の時間と注意力に配慮した構成になっていることが必要なのです。
専門用語を避け、住民目線の表現に整える重要性
議案書に専門用語が多く含まれていると、それだけで住民は理解のハードルを感じます。管理会社が作成した技術資料や法律文書をそのまま議案書に転記すると、文章が難解になり、読み手を遠ざける原因となります。総会を活性化したいなら、まず「誰に向けて書くのか」を明確にし、住民すべてが読んで理解できる文章へと整えることが不可欠です。
マンション管理に関する説明は、技術的な内容や専門知識が必要になることも多く、正確さを重視するあまりに専門用語をそのまま使ってしまいがちです。しかし、多くの住民にとって「ウレタン塗膜防水通気緩衝工法」「インターロッキング舗装」「長期修繕計画の資金バランス調整」などの表現は馴染みがなく、理解が追いつきません。専門用語は誤解を生むリスクが非常に高いため、可能な限り平易な言葉に置き換え、どうしても必要な場合には分かりやすい説明を添えることが大切です。
また、文章を長くしすぎないことも住民目線に立った議案書作成につながります。一文が長くなると意味をつかみにくくなり、読み手が途中で疲れてしまいます。短く区切った段落で論理的に整理し、余計な装飾語を減らすことで、読みやすさを大きく改善できます。文章の「見た目」も重要であり、段落の長さや文量のバランスは、読み手の集中力に直結します。
議案書の読みやすさは、住民の参加意欲を左右します。専門用語の扱い方ひとつで、総会への関心度が変わるということを意識し、常に「読み手に寄り添った文書」を目指すことが総会活性化の土台になります。

選択肢を提示する議案書が住民の関心を引き出す理由
管理組合の多くでは、議案書が「理事会の提案を承認してもらうためだけの文書」になってしまっています。しかし、それでは住民の意見が育まず、総会も盛り上がりません。総会を活性化したいのであれば、議案書は住民が主体的に参加できるような、選択肢を提示した文書にする必要があります。
例えば修繕積立金の改定議案であれば、一案のみを提示するよりも、複数の選択肢を示した方が住民の議論が生まれやすくなります。「現行の長期修繕計画に基づく改定案」「周期の見直しで値上げ幅を抑える案」「一時金との併用案」といった選択肢を示し、それぞれのメリットとデメリットを説明することで、住民は自分の立場で選択を考えるようになります。
選択肢を明示すると、住民が「自分ごと」として判断に参加しやすくなり、総会での発言や意見も活性化します。議案文中に住民の意見が反映できる余地が生まれ、議論が深まりやすくなります。さらに、理事会が複数の案を検討したうえで提案していることが伝わるため、透明性が高まり、理事会の信頼度向上にもつながります。
住民の理解と参加意欲を高めるためには、「結論ありきの議案書」を卒業し、「住民が選べる議案書」へ進化させる視点が必要です。これにより、総会は形式的な承認の場ではなく、コミュニティ全体で合意形成を図る実質的な議論の場へと変わります。
財務情報を丁寧に整理して信頼感を高める
管理組合の議案書の中で最も慎重さが求められるのは、費用や財務に関わる内容を扱う部分です。管理費の改定、修繕積立金の見直し、大規模修繕工事の費用決定、設備更新の支出などは、住民の生活に直接影響するため、反対意見が生まれやすい領域でもあります。住民は「本当に必要なのか」「もっと安くできないのか」「他の選択肢はなかったのか」といった疑問を抱きやすいため、財務情報は特に整理された形で提示することが信頼形成の鍵となります。
理事会が議案書を作成する際には、支出の内訳や収支予測をわかりやすく説明することが欠かせません。特に修繕積立金については、「いつ不足するのか」「不足を回避するための選択肢は何か」「長期修繕計画との整合性はどうか」など、住民が最も知りたい情報を明確に提示する必要があります。これらの情報が不十分だと、住民は不安を感じ、総会への参加意欲が低下し、議案への反対意見が強くなってしまいます。
さらに、財務情報を丁寧に整理することで、理事会の「説明責任を果たしている姿勢」が伝わり、議案書そのものの信頼性が高まります。誤解を招かないためには、数値の根拠や計算方法を明示することも重要です。透明性が高い議案書は、住民の不安を解消し、「理事会は自分たちのことを考えて提案している」と感じてもらう材料になります。
マンション総会参加率を高めるための議案書と説明手法の工夫
議案書の質を高めることは総会活性化の基礎ですが、それと同じくらい重要なのが「どのように伝えるか」という説明手法です。総会は議案書を配布して終わりではなく、住民が時間を確保し、理解したうえで参加できる環境づくりが欠かせません。そのためには事前の説明やオンライン活用など、住民の生活スタイルに合わせた工夫が必要です。
総会の数週間前に事前説明会を開催し、理事会が議案書の内容を丁寧に説明することで、当日の議論がスムーズになります。また、資料をオンラインで閲覧できるようにする、質問を事前に受け付ける、議案説明動画を配信するなど、デジタルツールを活用した説明方法も有効です。外出が難しい住民や多忙な家庭でも、オンラインを併用することで負担なく参加でき、総会に対する関心が高まります。
説明の工夫は、単に参加率を上げるだけではなく、住民の理解度を高める効果もあります。理解が深まるほど議案への納得感が高まり、総会の雰囲気も落ち着き、建設的な議論が生まれやすくなります。
まとめ:良い議案書が総会の質を変える
管理組合の総会は、マンションの未来を左右する最も重要な場です。総会が活性化するかどうかは、議案書の質と説明のあり方に大きく左右されます。読みやすく、理解しやすく、住民が主体的に参加したくなる議案書は、総会の雰囲気を一変させます。
結論ファーストの構成で伝わる文章に整え、専門用語を避けて住民目線で説明し、複数の選択肢を提示して参加意欲を引き出す。そして、財務情報を丁寧に整理して透明性を高め、事前説明やオンライン併用で参加しやすい環境をつくる。これらの工夫を積み重ねることで、総会は単なる形式的な会議ではなく、マンションの未来を語り合う場へと変わります。
議案書を改善すれば、総会は必ず変わります。
そして、総会が変われば、マンションの管理品質は確実に向上します。
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