要点
マンション管理組合の理事とは、マンション全体の管理運営や管理を担う理事会組織の一員です。具体的には、概ね月1回の理事会に参加して、①建物や設備の維持管理(長期修繕計画の立案や故障や壊れてしまった部分の修繕対応)、②管理費・修繕積立金の徴収の確認(滞納者の有無、督促)、③住民間の意見調整(住民からの要望や苦情対応)などを行います。理事の活動は、マンションを住みやすい環境にすること、またその維持をしていくために欠かせません。
理事の役割と重要性
(1) 建物や設備の維持管理
マンションは経年劣化するため、適切な修繕が必要です。理事は、建物や設備の状況を点検し、必要に応じて適宜修繕や補修を行います。また大規模修繕工事の計画を立てたり、その実施を行います。
※大規模修繕工事:マンションの外壁や防水部分などを約12〜15年ごとに全面的に修繕することです。
例えば、エレベーターが故障した場合、迅速に業者を手配するのも理事の役目です。適切な維持管理を行わないと、マンション生活が成り立たなくなり、生活が不便になってしまいます。さらに建物の資産価値が下がる可能性があります。
(2) 管理費や修繕積立金の徴収
管理組合には、住民から管理費や修繕積立金が集められます。理事はこれらの資金の徴収状況を把握及び改善し、また適切に管理し、必要な支出を判断します。
※修繕積立金:将来の大規模修繕に備えて、住民が毎月管理組合に納入するお金のことです。
例えば、新しい防犯カメラを設置する際、コストと効果を考え、最適な選択をするのが理事の責任です。
(3) 住民間の意見調整
マンションでは、多くの住民が共同で生活しています。そのため、①住民から「もっと〇〇を改善してほしい」などの要望や、「共用部分の〇〇で困っているので改善してほしい」などの要望や苦情を受け付け、必要に応じて対策を検討実施します。
また、住民間で意見の衝突やトラブルが発生することもあります。理事は中立な立場で一定意見を調整し、解決策を見つける役割を果たします。
※しかし、上下階の騒音問題など、個々の住民間の問題は個別事情のため、理事が入りこめない面もあります。管理組合としては、お互いにできるだけ譲り合うこと、またお互いに配慮しあうことを丁寧に伝え見守っていくことになります。
一方、管理規約、ルール違反者がいる場合は、管理組合が中心となり、管理会社の協力を得ながら改善してもらうよう働きかけをしていきます。
(4) 住民総会の運営
年に1回実施される(不定期に臨時総会を開催する場合もあります。)住民総会は、管理組合の重要な意思決定の場です。理事は総会で議題を提案し、住民全員での議論や採決を進行します。
※住民総会:全住民が参加できる会議で、管理規約の改正、長期修繕計画や今期決算や来期予算案、さらに今期の活動報告や来期の事業計画の承認を行います。
例えば、来年度に実施する大規模修繕工事の計画を臨時の住民説明会で説明し、住民総会で住民の承認を得ることで計画実施に進めることができます。
(5) 専門家や管理会社との連携
理事は、専門的な知識を補うために管理会社やマンション管理士、弁護士、建築士などの専門家と連携します。適切なアドバイスを受け、住民の利益を守る判断を下します。
例えば、大規模修繕工事の工事請負契約の内容が適切かどうかを確認する際、専門家(建築士等)の意見を参考にすることがあります。
また、①管理費・修繕積立金の徴収とお金の管理、運用の手続き、②建物・設備の各種点検業務、③清掃業務などは理事や住民では対応できないため、管理会社に業務委託をして実施します。理事はそれらの業務が適正に行われているかのチェック・確認を行います。
(6) 標準管理規約に基づく理事会の業務(マンション標準管理規約・令和6年6月7日改正より抜粋)
理事会は、標準管理規約に基づき、建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため、次の各号に掲げる業務を行います。
一 管理組合が管理する敷地及び共用部分等(以下本条及び第48条におい て「組合管理部分」という。)の保安、保全、保守、清掃、消毒及びご み処理
二 組合管理部分の修繕
三 長期修繕計画の作成又は変更に関する業務及び長期修繕計画書の管理
四 建替え等に係る合意形成に必要となる事項の調査に関する業務
五 適正化法第103条第1項に定める、宅地建物取引業者から交付を受けた設計図書の管理
六 修繕等の履歴情報の整理及び管理等
七 共用部分等に係る火災保険、地震保険その他の損害保険に関する業務
八 区分所有者が管理する専用使用部分について管理組合が行うことが適当であると認められる管理行為
九 敷地及び共用部分等の変更及び運営
十 修繕積立金の運用
十一 官公署、町内会等との渉外業務
十二 マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住 環境の維持及び向上に関する業務
十三 広報及び連絡業務
十四 管理組合の消滅時における残余財産の清算
十五 その他建物並びにその敷地及び附属施設の管理に関する業務
例えば、管理会社から提出された月次報告書を確認し、住民に説明・情報発信(毎月の管理組合通信などの発行等)する役割も理事会の重要な仕事です。
理事になるメリット
理事の役割には責任が伴いますが、多くのメリットもあります。
• マンション運営の知識が身につく: 修繕や法律、会計の知識を得ることで、住まいに関する理解が深まります。
• 住民間の信頼を得られる : 理事として活動することで、住民からの信頼を得ることができます。特に、問題解決に取り組む姿勢が評価されます。
• 自身の意見を反映しやすい : 理事になると、住民全体のために自身のアイデアを提案する機会が増えます。
理事の活動をスムーズにするポイント
(1) コミュニケーションを大切にする : 理事は住民や管理会社との円滑な連携が求められます。意見を聞く姿勢を持ち、情報を共有することで信頼を築きます。
(2) 時間の使い方を工夫する : 理事会や総会の準備に時間を割く必要がありますが、効率よく進める方法を考えることで負担を軽減できます。
例えば、メールやオンライン会議を活用することで、会議の回数や時間を短縮することが可能です。
(3) 専門家の意見を活用する : すべてを理事だけで判断する必要はありません。管理会社や専門家(マンション管理士、建築士等)に相談することで、スムーズに解決できることがあります。
理事としての心構え
理事として活動する中で、以下の心構えを持つことが大切です。
• 中立であること: 住民全員の立場を考慮し、公平な判断をすることが求められます。
• 学ぶ姿勢を持つこと: 最初はわからないことが多いのは当然です。少しずつ知識を増やしていくことで自信がつきます。
• 協力を大切にすること: 理事会はチームでの活動です。他の理事や住民と協力することで、良い成果を生むことができます。
まとめ
マンション管理組合の理事は、住みやすいマンションの環境と、資産価値の維持向上を図る重要な役割を担っています。建物や資金の管理、住民間の調整など多岐にわたる活動が求められますが、住民との信頼関係を築きながら中長期ビジョンをもって進めることで、住民にとって多くのメリットを得られます。
初めて理事を務める方も、焦らず学びながら取り組むことで、充実した活動ができるでしょう。