「完成保証」の保証内容はどんなもの?
管理組合が大規模修繕工事の時に、施工業者を選定する入札条件に、工事中の倒産への備えとして「完成保証」をリクエストするケースが非常に多いです。
管理組合の皆さんは、ここで「注意」が必要です。修繕業界には「完成保証」と言っても、完成保証制度や完成保証人等、様々な保証内容や仕組みが数多くあります。その保証の「内容」や「保証する者の状況」は、それぞれ別々なので、管理組合がしっかり確認をしないと、いざ業者倒産の時に、「希望どおりの保証をうけられない」という事態になりかねません。
また、管理組合をサポートする立場の設計事務所やマンション管理士、管理会社なども、完成保証や工事の保証に関しては、あまり詳しくありません。そこで是非、業界関係者の皆さんにも、このブログを読んで、「完成保証」に関して正しい方法で進めていただきたいと思います。
「完成保証」といっても、その種類は多岐に渡り、提供する主体や保証内容にも大きな違いがあります。これに対し、管理組合が加入する共用部のマンション火災保険のような保険商品は、保証主体が一貫して保険会社であり、提供される保証内容も標準化されているため、管理組合が混乱することやトラブルに遭遇するリスクが格段に低いです。しかし、今まで修繕業界では、一般の施工業者が加入できる「完成保証の保険商品」はありませんでした。そこで、施工業者が会員となっている業界団体や、施工業者同士が保証しあう「オリジナルの完成保証」を作って対応してきたのです。
また、それぞれの完成保証の保証内容を管理組合に詳しく説明するという「保証内容の重要事項説明」もほとんどありません(損害保険や瑕疵保険等では保証内容に関する重要事項説明が行われます)から、管理組合は保証内容を詳しく知ることなく業者選定をしてしまうという状況がありますす。
つまり、管理組合が「完成保証」をリクエストするだけでは、希望通りの保証内容にならない可能性があります。少なくとも、管理組合は「完成保証の保証内容の確認を十分にしてから、施工業者の選定や工事請負契約の締結をするというステップへ進む」必要があります。
当センターはそのために2023年10月、管理組合が施工業者を選定する入札時に、施工業者から完成保証の保証内容等を記載してもらう「保証内容の確認事項」を作成しました。この「保証内容の確認事項」を管理組合への提出資料することで、管理組合が各社の保証内容を確認することができます。
保証内容を確認することのメリット:施工業者のレベルが見える
保証の内容もさることながら、各社が提出した「保証内容の確認事項」を比較すると、各社が保証の内容等に関し、どれだけ詳しく理解をしていて、正しく記載しているのかの企業レベルや企業姿勢がわかります。意外と工事費比較やプレゼン内容とは違う側面で、施工業者のことを把握することができるので、そういった意味でも「保証内容の確認事項」を各社に提出してもらうことをお薦めします。ぜひ、履行保証保険の保証内容も確認してください!
また、当センターはこれらの背景から、2022年10月に日新火災海上保険(※1)と「大規模修繕工事向けの履行(りこう)保証保険」を共同開発しました。
(※1)日新火災海上保険は東京海上ホールディングスの完全子会社です。https://www.nisshinfire.co.jp/
今まで、履行保証保険は、公共工事では工事を受注する施工業者が加入することが一般的でしたが、修繕業界では同様の仕組み・制度はありませんでした。万が一、大規模修繕工事中に施工業者が倒産してしまった場合、工事再開完了のために管理組合には追加の費用負担が大きなリスクとして生じてしまいます。そこで、公共工事と同様の仕組み・制度の「大規模修繕工事向けの履行保証保険」を商品化しました。
履行保証保険の概要は、工事中の施工業者の倒産によって、工事請負契約が履行されないことで、管理組合に発生する損害を、保険金支払いによって一定補償し、工事の再開と完了をサポートします。なお、施工業者の倒産とは、清算、解散又は破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始もしくは特別清算の開始の申し立てがあったことを指します。
以下に、履行保証保険のポイントを記載します。
施工業者を事前審査
日新火災は、履行保証保険の申込みの前に、保険申込者となる施工業者の経営状況などに基づき、事前審査(与信枠設定の審査)を行います。なお、審査の結果、不合格となり保険申込ができない場合がありますのでご了承ください。
当センターでは、審査合格した施工業者をホームページで公開して、管理組合にご覧いただけるよう現在ホームページ公開準備中です(2024年4月公開予定)。
地域や団体加盟の関係なし
保険の申込みにあたり、地域や団体加盟などの制限や条件はありません。これにより、管理組合は施工業者の地域や団体加盟に関係なく、広い範囲から施工業者を選定していただくことができます。
費用は保険料のみ
履行保証保険は、登録料や年会費は不要です。保険料は保険の申込時に、施工業者にご負担いただきます。以下、参考例をご確認ください。
〈参考例 〉
例1 ①工事費:5000万円(消費税込み)、②工事期間:4カ月間
保険金(業者が倒産時に工事再開完了のために日新火災から管理組合に支払われる費用):500万円 ※工事費の10%
保険料(保険申込時に施工業者が日新火災に支払う費用険申込時に施工業者が日新火災に支払う費用):30万円※工事費の0.6%(施工業者の経営状況により増減があります)
例2 ①工事費:1億円(消費税込み)、②工事期間:6か月間
保険金:1,000万円 ※工事費の10%
保険料:60万円 ※工事費の0.6%(施工業者の経営状況により増減があります)
定額での保険金お支払い
工事中に施工業者が倒産した場合は、工事再開と完了のために、管理組合には様々な金銭負担が発生します。履行保証保険では、被保険者である管理組合の各種金銭負担に対して、工事請負契約で定められた損害賠償の予定額を保険金として定額でお支払いします(当センターでは、工事請負契約用の特約条項のひな型をご用意しています)。
※金銭負担の参考例:過払い金、増嵩(追加工事)費用、破産管財人の対応費用(弁護士費用)、出来高査定・精算業務費用、工事停止中の現場管理費用、代替履行業者の選定費用その他
契約対象
保険申込者 :大規模修繕工事を請け負う施工業者
被保険者 :大規模修繕工事の発注者(管理組合)
保険金をお支払いする場合
保険申込者である施工業者が工事中に倒産によって、保険証券に記載されている工事請負契約が履行できなくなった場合、被保険者である管理組合が被った損害に対して保険金が支払われます。
お支払いする保険金
工事総額の10%の額とします。ただし、1,000万円を限度とします。保険金は定額とします(損害金額による増減はありません)。保険金の使途に制限はありません。工事の再開・完了に必要な費用のお支払い等に幅広くご活用ください。
保険金をお支払いできない主な場合
- 保険申込者またはその者の法定代理人の故意または重大な過失によって生じた損害(ただし、損害が発生したことについて、発注者である管理組合が知らなかった場合を除きます)
- 戦争、外国の武力行使、革命、政権奪取、内乱、武装反乱その他これらに類似の事変または暴動によって生じた損害
- 地震、噴火、津波、洪水、高潮または台風によって生じた損害
- 目的物引き渡し後に発見された、その目的物の契約不適合の履行の追完に要する費用など
その他(以下は、履行保証保険、瑕疵保険に加入することが条件ではありません)
当センター「一般社団法人マンションあんしんセンター」では、施工業者が履行保証保険に加入するのに関係なく、倒産時の管理組合サポートを主要事業としています。具体的には、工事中に業者が倒産した場合や、工事後に施工実施部分において施工ミス、瑕疵が発生した場合に、以下の管理組合サポートをさせていただきます。
管理組合サポートとは
倒産時の情報収集や整理、工事再開計画を作成(無料)します。倒産時に当センター担当者が管理組合(工事現場等)へ伺い、施工業者の倒産状況の確認や、工事再開~完了のために何をするべきか整理して、今後の工事再開計画を作成し、管理組合へご提案します。
各専門家のご紹介(有料) ※当センターへの紹介料は不要です。
①弁護士、②建築士、③工事停止中の現場管理業者、④代替履行業者(引き継ぐ施工業者)等、各専門家をご紹介します。なお、これら専門家に支払う費用は、管理組合様のご負担となります。
代替履行業者の選定のために
一般に工事中に業者が倒産した場合、代替履行業者(工事を引き継ぐ施工業者)を見つけるのは難しいと言われます。当センターはその対策として、管理組合の皆さんには改めて大規模修繕工事を発注する施工業者には履行保証保険と瑕疵保険に加入をしてもらうことをお薦めします。
代替履行業者を見つけることが難しい理由は、①引き継ぐ業者が、工事再開・完了に必要な様々な費用を負担しなければならないという不安がある、②どこまで工事が完了して、残りはどんな工事をすればよいか明確でない可能性があり十分な施工ができないのではないかという不安がある、③十分な施工ができない可能性が一定ある中で、管理組合から工事完了後のアフター保証や瑕疵保証を求められ相当の補修費用を負担しなければならないという不安などがあります。
履行保証保険、瑕疵保険は代替履行業者を見つけるために必要!
- 履行保証保険の保険金によって、管理組合が工事再開・完了に必要な費用負担ができるため、代替履行業者に費用負担を強いることはありません。
- 履行保証保険の保険金を使用し、一級建築士など専門家に工事がどこまで完了しているか、残りの工事はどのような内容かの調査をしてもらうことができるため、代替履行業者はその内容に従って残工事を施工することができます。
- 瑕疵保険では、工事後の施工ミス・瑕疵の補修費用が保険金で支払われます。具体的には、施工実施した外壁や屋上からの雨漏り、外壁塗膜の著しい膨れ・割れ、外壁タイルの剥落。また設備工事では、給排水管からの漏水などとなります。
このように、倒産した施工業者が施工実施した部分と代替履行業者が施工実施した部分における施工ミスや瑕疵の補修費が瑕疵保険の保険金として支払われるので、代替履行業者の負担は大きく軽減されます。なお、この場合、代替履行業者も瑕疵保険に加入することが条件となります。瑕疵保険法人の住宅あんしん保証では、当初工事受注をした施工業者が瑕疵保険に加入していれば、代替履行業者は、その瑕疵保険の検査結果を継承して、瑕疵保険に加入することができます。この瑕疵保険料も履行保証保険の保険金があれば費用負担していただくことができますね。
管理組合のサポートは当センターにお任せください!
当センターは、この管理組合サポート活動の費用を捻出するため、上記でご紹介した「履行保証保険」や施工後の瑕疵・施工ミスを補修するための費用を保険金として支払う「瑕疵保険」の取り扱いを通じて運営しています。これには、保険代理手数料が含まれます。また、施工業者の倒産時や瑕疵発生時に、管理組合をサポートする活動を主要事業としており、代替履行業者の紹介も承っています。
履行保証保険、瑕疵保険は、工事ごとに施工業者が加入する保険ですが、任意保険のため、施工業者は自主的には加入してくれないケースがほとんどです。そこで、管理組合の皆さんが施工業者を選定する入札条件に「履行保証保険(日新火災)、瑕疵保険へ加入すること」と記載することで、スムーズに保険加入してもらえます。